塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
「髪飾りのリボンが風に飛ばされちゃって、この枝に引っかかったから取りに行こうと思ったんです。でも、下りられなくなって……」

 つっかえながらそう言った彼女の手には、ドレスと同じ色をした細いリボンが握られている。理由は分かったが、案外おてんばだなと少しおかしくなる。木登りをする貴族令嬢なんて、聞いたことがない。

「自分で木に登る前に、誰かを呼べばよかったのに。ほら、掴まって」

 苦笑しながら、レナルドは彼女に向けて両腕を差し出した。年の割に小柄なレナルドは、少女を木から抱き上げることはできない。だが、受け止めることはできる。これでも日々鍛えているのだから。

 レナルドの差し出した手を見て、少女は青い顔でぷるぷると震え、首を横に振った。

「で、でも、怖い……」

「大丈夫、絶対に受け止めてやるから。ほら、おいで」

「……っ」

 しばらくして覚悟を決めたように唇を引き結んだ少女が、こわごわとした様子で枝から手を離し、レナルドの方へ身を乗り出す。華奢なその手を握りしめると、覚悟を決めたような表情で少女が枝から飛び降りた。レナルドはしっかりとそれを抱き止めると、そっと地面に下ろす。安心したようにホッと息を吐いた彼女の手からリボンを取ると、レナルドは髪に結んでやった。

「今度からは、自分で下りられない高さの木には登らないようにね」

「気をつけます」

 はにかんだように笑った少女は、乱れた髪を整えるようにサッと手で撫でると、じっとレナルドを見つめた。

「助けてくれて、ありがとうございました。まるで本物の騎士様が来てくださったみたいでした」

「……っ」
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