塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
 手の甲についた傷を、彼女は眉尻を下げて見つめる。レナルドにとっては掠り傷だし、放っておけばそのうち血も止まるだろうと思っていたのだが、ラシェルはポケットから真っ白なハンカチを取り出すと傷口に巻いてくれた。

 真剣な表情でハンカチを結ぶラシェルを見つめながら、レナルドは鼓動が速くなっていくのを感じていた。

 魔獣から子供たちを守ろうとしていた様子や、レナルドの些細な怪我を心配してくれる様子など、彼女の方がレナルドよりもよっぽど迷いなく人を助けているような気がする。

 幼い頃の面影を残した横顔を見つめながら、レナルドは宝物がまた増えたことを実感していた。彼女は血が止まればハンカチは破棄していいと言ってくれたが、そんなことをするつもりはない。このハンカチは大切に保管し、手当てのお礼としてあらためて彼女を食事にでも誘うつもりだ。その時には新しいハンカチを贈ってもいいし、アクセサリーを贈ってもいいかもしれない。

 彼女のほっそりとした指に飾る指輪を贈ることを想像して、レナルドはさすがにそれは先走りすぎだろうと緩みかけた口元を引きしめる。

 職務中に誘いをかけるような真似をして幻滅されても嫌なので、後日手紙を出そうと考えながら、後ろ髪を引かれつつレナルドはラシェルと別れた。

 最後にもう一度だけ彼女の姿を目に焼きつけておきたいと振り返ったレナルドは、思わず足を止めて息をのんだ。
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