塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
 眉を寄せた不機嫌そうな顔ながらも、続きを促すような仕草をするので、ラシェルは懐かしい記憶を辿りつつ口を開く。

「北の森の近くに孤児院があるでしょう。そちらへ慰問に行った際に、魔獣の襲撃を受けたんです。それを助けてくださったのがレナルド様でした」

「孤児院……」

「魔獣避けの柵が古くなっていて、隙間から侵入したようで……。庭の隅に追い詰められて、もうだめだって思った時、レナルド様が来てくれたんです。恐怖に震えていた孤児院の子供たちにも優しい言葉をかけてくださって、身分も何も関係なく、困っている人を迷わず助ける優しさを持っているレナルド様は、本当にすごいなぁって思ったんです」

「それ、は……」

 レナルドは手で口元を覆うと視線をさまよわせた。きっと一生懸命思い出そうとしてくれているのだろう。だが、覚えていたならすぐに反応があるはずだ。

「やっぱり、覚えていないですよね……。でもあの時、レナルド様が来てくれなかったら、今頃私はここにいません。レナルド様は、命の恩人なんです。だからこれからは、私が少しでもレナルド様のお役に立てるよう、頑張りますね」

「いやっあの……別に、そういうのは……求めてないから。形だけの結婚だと、伝えただろう」

 あらためて強調されて、ラシェルはほんの少し胸の奥が疼くのを堪えながら意識して口角を上げる。

「いわゆる『お飾りの妻』ということですよね。大丈夫です、ちゃんとわきまえています。お屋敷の隅にでも一部屋いただけたら、それで充分です」

「……きみは、俺が娶った女性にそのような扱いをするような男だと思っているのか」

 不機嫌そうな低い声で言われて、ラシェルは慌てて首を横に振る。
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