塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
 ラシェルの初めてをもらえることの喜びと、大切に抱かねばという思いが入りまじり、レナルドは必死に自らの欲望を押さえつけながら彼女の身体に触れた。

 もっと触れたいし、なんなら全身にキスの雨を降らせたいという気持ちだが、そんなことをすれば嫌われるのは間違いない。

 結局淡々と行為を済ませ、まだ足りないと昂ったままの自身を慰めるために、レナルドはそそくさと寝室を後にした。

 そして、それ以降は彼女を抱くこともしなかった。次にラシェルを抱いてしまったら、今度こそ彼女の身体をむさぼってしまうような気がしたから。
 
――どう考えても幸せな初夜とは程遠かったあの夜を上書きするように、今度こそラシェルを甘く蕩かしてやりたい。

 そんな思いで過ごした二度目の夜は、泣きたくなるほどに幸せだった。

 自分の腕の中で甘い声をあげて乱れるラシェルが愛おしくてたまらなかったし、抱きついてくれた手のぬくもりが忘れられない。

 愛しあう夫婦であるとラシェルを騙し続けることに、もちろん罪悪感はある。だが柔らかな微笑みを向けられれば、本当に愛されているのではないかと勘違いしたくなる。だからレナルドは、この幸せを手放せずにいるのだ。記憶が戻ったことを知られれば、ラシェルはきっと離れていってしまうから。

 懸命に愛を伝えた結果、ラシェルは少しは自分のことを好きになってくれているだろうか。

 抱きしめる腕や触れる唇を拒まないのは、彼女自身の心がレナルドに向きつつあると自惚れても構わないだろうか。

 だがそんなものは、レナルドの思い上がりだった。

 ラシェルの心の中には、今も別の男がいる。

 幼馴染のセヴラン・ノディエ伯爵令息。彼はいつだってラシェルのそばにいた。
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