塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
「レナルド様は、こんなにもよくしてくださっているのに……。私は恩返しどころか迷惑をかけているものね」

 自嘲するようにつぶやきながら、ラシェルは手紙を読み進める。ちょっとしたエピソードを添えて家族の近況も教えてくれて、ラシェルは思わず微笑んだ。なんだか無性に家族に会いたくなる。

 そんなラシェルの気持ちに応えるかのように、便箋の最後の一枚には近々会えないだろうかというお誘いが書かれていた。

 用事で近くまで来る予定があるらしく、ラシェルの都合さえよければ会いたいとのことだ。書かれた日付は明日で、今から返事を出しても間に合わない。エリクも、急なことだから会えるとは期待していないのだろう。

 だが、ラシェルは久しぶりに兄の顔が見たくてたまらなくなった。エリクの指定した場所は徒歩でも行けるほどの距離だし、もともとラシェルは部屋へ引きこもる以外にすることがない。それにレナルドと離縁する可能性がある今、事前に兄の耳に入れておくことは必要だと思ったのだ。

 読み終えた手紙を引き出しの中に大切にしまい込んで、ラシェルは明日の予定を考えていた。


 翌日、ラシェルはエリクに会うために屋敷を出た。侍女のコレットも同行したがったが、久しぶりに家族水入らずで過ごしたいのだと告げれば、納得してくれたようだ。

 約束した場所には、兄の姿があった。久しぶりに見た家族の顔に胸がいっぱいになって、ラシェルは思わず駆け寄った。

「お兄様!」

「ラシェル! きっと来られないだろうと思っていたけど、会えて嬉しいよ」

 ラシェルを見て、兄は嬉しそうに頬を緩める。

「元気そうで安心した。侯爵家で、よくしてもらってるんだね」

「……えぇ、レナルド様は本当によくしてくださいます」
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