塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました

「うん。借金を返済してくれたばかりか、うちにも援助をしてくださって……。本当に助かったよ。去年の水害で壊れた橋も、ようやく補修することができたんだ」

「そうだったんですね」

 笑顔で侯爵家への感謝を口にするエリクを見て、ラシェルは言葉に詰まってしまう。この状況で、今後レナルドとの関係が悪化するであろうことなんて、言えるはずがない。

 黙りこくるラシェルに、エリクは優しい笑みを向けた。

「可愛い妹には幸せになってもらいたいと、僕はずっと思っていたんだよ。だから、ラシェルがヴァンタール家に嫁ぐことが決まってすごく嬉しかったんだ」

「……これ以上ないほどの玉の輿ですものね」

――それも、もうすぐ終わってしまうけれど。

 心の中でそうつぶやきながらうなずいたラシェルに、エリクは「そうじゃない」と首を横に振った。

 どういうことかと首をかしげると、兄は悪戯っぽい表情でラシェルの耳元にそっと顔を近づける。

「だってラシェルは、ずっとレナルド様のことが好きだっただろう?」

「えっ、どうしてそれをご存じなんですか」

 思わず認めてしまったラシェルを見て、エリクは慈しむように目を細めた。

「だってそりゃあ、僕は兄だからね。妹が夜会に出るたびに、彼をじっと見つめていたことくらい分かっていたよ」

「気づかれていたなんて……」

 今更ながら恥ずかしくなって、ラシェルはうつむく。

 時々参加した夜会では、いつもエリクにエスコートをしてもらっていた。華やかな場はあまり得意ではなかったけれど、レナルドの姿を見ることができるのは嬉しくて、いつも遠くから視線を送っていた。振り向いてもらえるなんてことは期待していなくて、ただ顔を見られるだけで幸せだった。
< 139 / 167 >

この作品をシェア

pagetop