塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
「うん。借金を返済してくれたばかりか、うちにも援助をしてくださって……。本当に助かったよ。去年の水害で壊れた橋も、ようやく補修することができたんだ」
「そうだったんですね」
笑顔で侯爵家への感謝を口にするエリクを見て、ラシェルは言葉に詰まってしまう。この状況で、今後レナルドとの関係が悪化するであろうことなんて、言えるはずがない。
黙りこくるラシェルに、エリクは優しい笑みを向けた。
「可愛い妹には幸せになってもらいたいと、僕はずっと思っていたんだよ。だから、ラシェルがヴァンタール家に嫁ぐことが決まってすごく嬉しかったんだ」
「……これ以上ないほどの玉の輿ですものね」
――それも、もうすぐ終わってしまうけれど。
心の中でそうつぶやきながらうなずいたラシェルに、エリクは「そうじゃない」と首を横に振った。
どういうことかと首をかしげると、兄は悪戯っぽい表情でラシェルの耳元にそっと顔を近づける。
「だってラシェルは、ずっとレナルド様のことが好きだっただろう?」
「えっ、どうしてそれをご存じなんですか」
思わず認めてしまったラシェルを見て、エリクは慈しむように目を細めた。
「だってそりゃあ、僕は兄だからね。妹が夜会に出るたびに、彼をじっと見つめていたことくらい分かっていたよ」
「気づかれていたなんて……」
今更ながら恥ずかしくなって、ラシェルはうつむく。
時々参加した夜会では、いつもエリクにエスコートをしてもらっていた。華やかな場はあまり得意ではなかったけれど、レナルドの姿を見ることができるのは嬉しくて、いつも遠くから視線を送っていた。振り向いてもらえるなんてことは期待していなくて、ただ顔を見られるだけで幸せだった。