塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
 セヴランは目を見開いて、ぶるぶると震え始める。伯爵家であることを常に口にしていたセヴランにとって、貴族でなくなるということは何よりも恐ろしいことなのかもしれない。

 焦点の合わない顔で、信じないと何度もつぶやいていたセヴランは、突然大声をあげるとレナルドに向かって突進してきた。
 どこにそんな力があったのかと思うほどの勢いだっが、セヴランの渾身の一撃をレナルドは難なく受け止める。そしてあっさりと床に引き倒した。

 ラシェルの腕を拘束していた縄で後ろ手に縛られても、セヴランはぎらぎらした目でレナルドをにらみつけている。 

「……ラシェルを金で買ったくせに。おれの方が、ずっとラシェルを愛してた……!」

 唾を飛ばしながら叫ぶセヴランの縄を、レナルドは無表情で引く。拘束が強くなったのか、セヴランはぐうっと低く唸った。

「一方的な支配欲のくせに、偉そうに愛を語るな。次にラシェルの名を口にしたら、二度と口を開けないよう縫いつけるぞ」

「お、おまえだって愛してもないくせに……!」

 苦しげに顔を歪めながらも言い返したセヴランの身体をレナルドは表情を変えずに踏みつけた。体重をかけられてセヴランが苦痛に呻く。

「黙れ。俺は、ラシェルのことを愛してる。ずっと前から……子供の頃から、ずっとだ」

 おとなしくなったセヴランには目もくれず、レナルドは自らの左胸を押さえるとラシェルに視線を向けた。その顔には、さっきまでと打って変わって優しい笑みが浮かんでいる。

 その微笑みを受け止めたラシェルだったが、彼の話した内容に違和感を覚えて固まってしまう。子供の頃からというのは、どういうことなのだろうか。

 戸惑うラシェルを見て、レナルドは小さく笑うと再度左胸に手を当てた。
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