塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました

  セヴランとその仲間が連行されていき、本当ならばレナルドも仕事に戻らなければならないのだが、ユーグの計らいでラシェルと共に帰宅することになった。

 恐ろしい目に遭っただろうからレナルドがそばにいてあげてと笑ったユーグの優しさに、ラシェルも感謝の気持ちでいっぱいだ。

 いつの間にかレナルドが呼んでいた馬車に乗り、ラシェルは彼と共に屋敷を目指す。向かいあって座ったことしかなかったはずなのに、レナルドはラシェルの腰を抱くようにして隣に座っている。

 恐怖から解放されてホッとする気持ちや、再びレナルドとこうして触れあう嬉しさもあるが、ラシェルの心はまだ落ち着かない。
 栞のことや、レナルドが子供の頃からラシェルを想ってくれていたことなど、聞きたいことがたくさんある。

 何から尋ねればいいだろうかと考えつつうつむいたラシェルは、レナルドが右手の拳に怪我をしていることに気づいた。それほど深い傷ではなさそうだが、血が滲んでいる。

「レナルド様、手を怪我してます」

「え? あぁ、あいつを殴った時に、歯にでも当たったんだろう。大したことはない」

「でも、血が出ています」

 レナルドは特に気にしていなさそうだったが、ラシェルはポケットからハンカチを取り出すと彼の手に巻いた。数年前にも同じことをしたなと懐かしい気持ちになりつつ、それは口に出さずにラシェルは微笑む。

「ひとまず、これで。帰ったらきちんと消毒しましょうね」

「……ありがとう」

 巻かれたハンカチを嬉しそうに左手で撫でて、レナルドはラシェルの顔をじっと見た。何か言いたげな視線に思わず見つめ返すと、彼は口元を微かに緩める。

「前にも、同じことがあったな。きみに、こうしてハンカチを巻いて手当てをしてもらった」

「えっ……覚えて……?」
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