【書籍化決定】塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
【番外編】2人きりの癒しの時間
「今日のお出かけは、中止にしましょう」
「えぇっ!?」
ラシェルの宣言に、レナルドは大きく目を見開いた。
彼が驚くのも、無理はない。今日は、以前からラシェルが行きたいと言っていた植物園へ行く約束をしていたのだ。
だけど、このところ仕事で忙しくしていたレナルドが、ようやくもぎ取った休日。彼は明らかに睡眠不足で疲れた顔をしている。そんな状況で出かけても、きっと心から楽しめない。お出かけは楽しみにしていたけれど、レナルドに休養をとってもらうことも大事だ。それにラシェルは、レナルドと一緒にいられるならどこでも構わないから。
「レナルド様は、お疲れでしょう。植物園に行くのはまたの機会にして、今日は家でゆっくりと過ごしませんか?」
「でも、前から約束していたし……」
まだ納得のいかなさそうな顔をしているレナルドの耳元に、ラシェルはそっと顔を寄せた。
「お出かけはまたできるもの。それにほら、外だとキスができないけど、お部屋の中ならたくさんできるでしょ? 最近レナルド様とキスするのが少なくって、ちょっとさみしかったの」
こそりとそんな本音を囁くと、レナルドが小さく息をのんだ。
最近のレナルドは就寝時間も遅くて、一緒に過ごす時間が減っていたのだ。自分を優先してほしいなんてわがままを言うつもりはなかったけれど、さみしい気持ちはあった。
「そうだな。じゃあ今日はゆっくり過ごそう」
深くうなずいたレナルドは、家で過ごす休日に気持ちを切り替えたようだ。しっかりと腰に腕を回されて、ラシェルはレナルドの部屋へと向かった。
お茶の準備を整えた侍女が下がっていき、扉が閉まった瞬間、強く腰を抱き寄せられた。レナルドの腕に包まれたと思ったら、頬に手が添えられる。軽く上を向けば、唇が重なった。すぐに唇を割って、熱い舌が滑り込んでくる。
挨拶のような軽いキスはしていたけれど、こんな深いキスは少しだけ久しぶりだ。求めていたものがやっともらえたような気持ちになって、ラシェルの心の中があたたかいもので満たされていく。
「ラシェルとこうするの、すごく久しぶりな気がする」
唇を微かに離した状態でレナルドが囁く。久しぶりといっても多分二、三日なのだけど、お互いに同じことを考えていたのが嬉しくてたまらない。
視線を絡ませて笑い合い、二人は何度も甘い口づけを交わした。
やがてレナルドの手が、ラシェルの腰をそっと撫で上げる。そのまま胸に触れようとした不埒な手を、ラシェルは軽く掴んで止めた。
「まだ、だめ」
どうしてと言わんばかりの表情を浮かべるレナルドの顔を、ラシェルはじっとのぞき込む。
「昨晩も、遅くまで起きていたでしょう。寝不足の顔をしてます」
「睡眠時間が短いのには、慣れてるよ」
「でも、隈ができてるもの。今日は特別に膝枕をしてあげるので、少し眠ってください」
そう言ってぽんぽんと腿のあたりを叩いてみせると、レナルドの表情が少し緩んだ。
「ラシェルの膝枕……。そんな魅力的な提案をされたら、断れないな。じゃあ、少しだけ横にならせて。起きたら、そのあとは今度こそベッドに行こう」
「ふふ、起きたのにベッドへ行くって、変な感じだわ」
レナルドの誘い文句が面白くて、ラシェルはくすくすと笑った。
ゆっくりと横になったレナルドの頭を、ラシェルはそっと撫でる。艶やかな黒髪を指先で梳いていると、レナルドは心地よさそうに目を細めた。
「ラシェルに頭を撫でてもらうって、すごくいいな。癒される」
「私も、レナルドの様の髪を触ることってあんまりないから新鮮で楽しいです。さらさらした髪が、気持ちいいわ」
「ラシェルのふわふわとした柔らかい髪も、俺は好きだよ。甘いミルクティーみたいな色で、美味しそうだ」
手を伸ばしたレナルドが、ラシェルの髪を指先に絡める。そしてそのまま口元に押し当てた。その仕草を見てどきりと跳ねた鼓動を隠すように、ラシェルは彼の髪を撫で続けた。
やがて、レナルドはふわぁっと欠伸をする。寝不足でも平気だと言っていたけれど、やっぱり眠くなってきたようだ。
「すごく幸せだな。時間がゆったりと流れているような気がする」
「ね、こんな休日も悪くないでしょう?」
そう言って笑いかけると、レナルドはうなずいて眠そうに瞬きをした。
黙って見守るラシェルの前で、レナルドは静かな寝息をたて始めた。起こさないよう気をつけながら、ラシェルはじっと彼の顔を見つめる。
レナルドの寝顔を見る機会は、案外少ない。ラシェルは朝が弱いし、夜も大抵彼より先に眠ってしまう。それは、レナルドに抱かれて疲れ切ってしまうからなのだけど。
目を閉じた顔は、いつもより少しだけあどけなく見える。幼い頃に彼と城の庭で出会った時のことを思い出して、ラシェルは小さく微笑んだ。あの時からレナルドは、ラシェルだけにまっすぐな想いを捧げてくれている。あの時のラシェルもきっと、心のどこかでレナルドのことを気にしていたのだろう。だって、困っている時に颯爽とあらわれたレナルドは、本の中の騎士にそっくりで本当にかっこよかったから。
およそ十年の時を経て再会し、お互いの気持ちを通わせて、今こうして一緒にいられることがとても幸せだ。
懐かしい記憶をたどっているうちに、いつの間にかラシェルも眠りに誘われていた。
◇
優しく頭を撫でられるのを感じて、ラシェルはゆっくりと目を開けた。レナルドを寝かしつけていたつもりだったのに、ラシェルも一緒に眠ってしまったようだ。
ソファに座っていたはずなのに、身体が横になっていることに気づいてラシェルは目を瞬く。枕のように頭を置いているのは、レナルドの膝ではないだろうか。
顔を上げれば、レナルドが目を細めてラシェルを見下ろしていた。
「あぁ、起きた? ラシェル」
「私……いつの間に」
「気持ちよさそうに眠ってたから、今度は俺が膝枕をしてあげようと思って。動かしても全然起きなかったな」
「うぅ、そんなに熟睡していたなんて……」
恥ずかしくなりつつ身体を起こすと、レナルドが抱き寄せてくれた。
「ラシェルの寝顔を堪能できて、俺は楽しかったけどね」
可愛かったと額に口づけながら囁き、レナルドはそのままラシェルの身体を抱き上げた。
「きゃ……っレナルド様、どこへ……」
「起きたらベッドに行くって約束しただろう?」
にんまりと笑いながら、レナルドはラシェルの頬にキスを落とす。あっという間に寝室にたどりつき、ラシェルの身体はベッドの上に横たえられた。
もちろん、すぐにレナルドが上から覆いかぶさってくる。
「ラシェルが、キスできなくてさみしかったなんて可愛いことを言ってくれたから、今日はたくさんキスをしよう。もちろん、唇だけじゃなくて全身に」
そう言って、言葉通り顔中にキスの雨が降ってくる。愛おしいと言わんばかりの甘い口づけを、ラシェルは幸せな気持ちで受け止めた。
唇から頬へ、そして首筋へと移動して行ったレナルドは、軽くドレスの胸元を引き下げる。服で隠れるその場所には、先週刻まれた痕が微かに残っていた。相変わらずレナルドは、ラシェルの肌に痕を残すことを好んでいる。夜会に出席する時などは、周囲の男性を牽制するために見える場所にも残したがるのをいつも必死で止めているくらいだ。
「あぁ、薄くなってる。これは俺がラシェルを愛している証なんだから、ちゃんとつけておかなくちゃな」
「っあ、ん……っ」
指先で軽くなぞったあと、レナルドが唇を押し当てる。上書きをするように同じ場所を吸い上げられて、ラシェルの口からは吐息まじりの声が漏れた。
柔らかな唇の感触と、ちくりとした痛みは、いつだってラシェルの体温を上げる。ぞくぞくとしたものが全身に広がって、お腹の奥が物欲しげに疼いたような気がした。
「ぁ……、もっと……」
思わずねだると、レナルドが嬉しそうに笑った。
「ラシェルが俺を欲しがってくれると、すごく嬉しい」
「だって、大好きな人にはいつだって触れたいと思うし、キスだってしたいの」
レナルドの首に腕を回して囁くと、彼の表情が柔らかく緩んだ。引き寄せられるように唇が重なり、むさぼるような口づけを繰り返す。
溺れてしまいそうな甘いキスをしながら、レナルドへの想いを隠すことなく伝えられる今の幸せをラシェルはあらためて実感していた。
レナルドから求婚された時は何かの間違いではないかと思ったし、想いが叶うなんて考えたこともなかった。
愛されなくても、ただそばにいたいと結婚を受け入れたことや、記憶を失ったレナルドのあまりの甘さに戸惑ったこと、そしてお互いが同じ気持ちであると判明した時のこと――。
そんな日々を越えて、臆することなくレナルドに愛を告げられるのが嬉しくてたまらない。
「愛してる、レナルド様」
キスの合間にそう告げると、レナルドはぱあっと花が開くような笑みを浮かべた。心から嬉しそうなその笑顔を見て、ラシェルはまた彼に惚れ直すような気持ちになる。
「うん、俺も愛してる。ラシェルは、俺の唯一だよ」
そう言ってまた降ってきた優しいキスを受け止めて、ラシェルは微笑んだ。
◇
その後二人は、何度も想いを告げ合いながら、甘く濃厚な時間を過ごした。
植物園には行けなかったけれど、レナルドが庭でお茶を飲むことを提案してくれたし、何よりラシェルにとっては彼と一緒にいられること自体が幸せなのだ。
ついつい盛り上がりすぎて、庭でのお茶会は夜になってしまったけれど、薄明りの中でのんびりと過ごす時間も、いいものだった。
「そういえば、隈が薄くなっているような……」
ふと気づいたラシェルは、レナルドの顔を見上げた。庭園灯に照らされた顔は、隈ひとつ見当たらない。それどころか、心なしか肌艶がよくなったような気もする。
「少しお昼寝したからかしら」
「きっと、ラシェルの膝枕効果だな。ラシェルに触れていると癒されるんだよ」
「ふふ、少しでもお疲れのレナルド様を癒せていたら嬉しいです」
「まぁ、俺にとっては、きみを抱くことが一番の回復薬だけど」
そう言って抱き寄せられ、こめかみのあたりに唇を押し当てられる。
「だから、あとでもう少し、癒してくれる?」
息を吹き込むように耳元で囁かれた言葉に、一気に頬が熱くなる。さっきまでベッドでたっぷりと愛されたはずなのに、まだ足りないと身体が疼き始めたような気がした。
「……あまり遅くならないなら」
前のめりで受け入れるのは少し恥ずかしくて、そんなことを言ったラシェルを見て、レナルドは笑いながらうなずいた。
「なるべく、加減するように努力する」
そう言ってくれていても、結局は朝まで眠れないのだろうなと思いつつ、ラシェルは彼の胸に身体を預けた。
そしてその予想通り、夜通し甘い時間を過ごすことになったのだった。
「えぇっ!?」
ラシェルの宣言に、レナルドは大きく目を見開いた。
彼が驚くのも、無理はない。今日は、以前からラシェルが行きたいと言っていた植物園へ行く約束をしていたのだ。
だけど、このところ仕事で忙しくしていたレナルドが、ようやくもぎ取った休日。彼は明らかに睡眠不足で疲れた顔をしている。そんな状況で出かけても、きっと心から楽しめない。お出かけは楽しみにしていたけれど、レナルドに休養をとってもらうことも大事だ。それにラシェルは、レナルドと一緒にいられるならどこでも構わないから。
「レナルド様は、お疲れでしょう。植物園に行くのはまたの機会にして、今日は家でゆっくりと過ごしませんか?」
「でも、前から約束していたし……」
まだ納得のいかなさそうな顔をしているレナルドの耳元に、ラシェルはそっと顔を寄せた。
「お出かけはまたできるもの。それにほら、外だとキスができないけど、お部屋の中ならたくさんできるでしょ? 最近レナルド様とキスするのが少なくって、ちょっとさみしかったの」
こそりとそんな本音を囁くと、レナルドが小さく息をのんだ。
最近のレナルドは就寝時間も遅くて、一緒に過ごす時間が減っていたのだ。自分を優先してほしいなんてわがままを言うつもりはなかったけれど、さみしい気持ちはあった。
「そうだな。じゃあ今日はゆっくり過ごそう」
深くうなずいたレナルドは、家で過ごす休日に気持ちを切り替えたようだ。しっかりと腰に腕を回されて、ラシェルはレナルドの部屋へと向かった。
お茶の準備を整えた侍女が下がっていき、扉が閉まった瞬間、強く腰を抱き寄せられた。レナルドの腕に包まれたと思ったら、頬に手が添えられる。軽く上を向けば、唇が重なった。すぐに唇を割って、熱い舌が滑り込んでくる。
挨拶のような軽いキスはしていたけれど、こんな深いキスは少しだけ久しぶりだ。求めていたものがやっともらえたような気持ちになって、ラシェルの心の中があたたかいもので満たされていく。
「ラシェルとこうするの、すごく久しぶりな気がする」
唇を微かに離した状態でレナルドが囁く。久しぶりといっても多分二、三日なのだけど、お互いに同じことを考えていたのが嬉しくてたまらない。
視線を絡ませて笑い合い、二人は何度も甘い口づけを交わした。
やがてレナルドの手が、ラシェルの腰をそっと撫で上げる。そのまま胸に触れようとした不埒な手を、ラシェルは軽く掴んで止めた。
「まだ、だめ」
どうしてと言わんばかりの表情を浮かべるレナルドの顔を、ラシェルはじっとのぞき込む。
「昨晩も、遅くまで起きていたでしょう。寝不足の顔をしてます」
「睡眠時間が短いのには、慣れてるよ」
「でも、隈ができてるもの。今日は特別に膝枕をしてあげるので、少し眠ってください」
そう言ってぽんぽんと腿のあたりを叩いてみせると、レナルドの表情が少し緩んだ。
「ラシェルの膝枕……。そんな魅力的な提案をされたら、断れないな。じゃあ、少しだけ横にならせて。起きたら、そのあとは今度こそベッドに行こう」
「ふふ、起きたのにベッドへ行くって、変な感じだわ」
レナルドの誘い文句が面白くて、ラシェルはくすくすと笑った。
ゆっくりと横になったレナルドの頭を、ラシェルはそっと撫でる。艶やかな黒髪を指先で梳いていると、レナルドは心地よさそうに目を細めた。
「ラシェルに頭を撫でてもらうって、すごくいいな。癒される」
「私も、レナルドの様の髪を触ることってあんまりないから新鮮で楽しいです。さらさらした髪が、気持ちいいわ」
「ラシェルのふわふわとした柔らかい髪も、俺は好きだよ。甘いミルクティーみたいな色で、美味しそうだ」
手を伸ばしたレナルドが、ラシェルの髪を指先に絡める。そしてそのまま口元に押し当てた。その仕草を見てどきりと跳ねた鼓動を隠すように、ラシェルは彼の髪を撫で続けた。
やがて、レナルドはふわぁっと欠伸をする。寝不足でも平気だと言っていたけれど、やっぱり眠くなってきたようだ。
「すごく幸せだな。時間がゆったりと流れているような気がする」
「ね、こんな休日も悪くないでしょう?」
そう言って笑いかけると、レナルドはうなずいて眠そうに瞬きをした。
黙って見守るラシェルの前で、レナルドは静かな寝息をたて始めた。起こさないよう気をつけながら、ラシェルはじっと彼の顔を見つめる。
レナルドの寝顔を見る機会は、案外少ない。ラシェルは朝が弱いし、夜も大抵彼より先に眠ってしまう。それは、レナルドに抱かれて疲れ切ってしまうからなのだけど。
目を閉じた顔は、いつもより少しだけあどけなく見える。幼い頃に彼と城の庭で出会った時のことを思い出して、ラシェルは小さく微笑んだ。あの時からレナルドは、ラシェルだけにまっすぐな想いを捧げてくれている。あの時のラシェルもきっと、心のどこかでレナルドのことを気にしていたのだろう。だって、困っている時に颯爽とあらわれたレナルドは、本の中の騎士にそっくりで本当にかっこよかったから。
およそ十年の時を経て再会し、お互いの気持ちを通わせて、今こうして一緒にいられることがとても幸せだ。
懐かしい記憶をたどっているうちに、いつの間にかラシェルも眠りに誘われていた。
◇
優しく頭を撫でられるのを感じて、ラシェルはゆっくりと目を開けた。レナルドを寝かしつけていたつもりだったのに、ラシェルも一緒に眠ってしまったようだ。
ソファに座っていたはずなのに、身体が横になっていることに気づいてラシェルは目を瞬く。枕のように頭を置いているのは、レナルドの膝ではないだろうか。
顔を上げれば、レナルドが目を細めてラシェルを見下ろしていた。
「あぁ、起きた? ラシェル」
「私……いつの間に」
「気持ちよさそうに眠ってたから、今度は俺が膝枕をしてあげようと思って。動かしても全然起きなかったな」
「うぅ、そんなに熟睡していたなんて……」
恥ずかしくなりつつ身体を起こすと、レナルドが抱き寄せてくれた。
「ラシェルの寝顔を堪能できて、俺は楽しかったけどね」
可愛かったと額に口づけながら囁き、レナルドはそのままラシェルの身体を抱き上げた。
「きゃ……っレナルド様、どこへ……」
「起きたらベッドに行くって約束しただろう?」
にんまりと笑いながら、レナルドはラシェルの頬にキスを落とす。あっという間に寝室にたどりつき、ラシェルの身体はベッドの上に横たえられた。
もちろん、すぐにレナルドが上から覆いかぶさってくる。
「ラシェルが、キスできなくてさみしかったなんて可愛いことを言ってくれたから、今日はたくさんキスをしよう。もちろん、唇だけじゃなくて全身に」
そう言って、言葉通り顔中にキスの雨が降ってくる。愛おしいと言わんばかりの甘い口づけを、ラシェルは幸せな気持ちで受け止めた。
唇から頬へ、そして首筋へと移動して行ったレナルドは、軽くドレスの胸元を引き下げる。服で隠れるその場所には、先週刻まれた痕が微かに残っていた。相変わらずレナルドは、ラシェルの肌に痕を残すことを好んでいる。夜会に出席する時などは、周囲の男性を牽制するために見える場所にも残したがるのをいつも必死で止めているくらいだ。
「あぁ、薄くなってる。これは俺がラシェルを愛している証なんだから、ちゃんとつけておかなくちゃな」
「っあ、ん……っ」
指先で軽くなぞったあと、レナルドが唇を押し当てる。上書きをするように同じ場所を吸い上げられて、ラシェルの口からは吐息まじりの声が漏れた。
柔らかな唇の感触と、ちくりとした痛みは、いつだってラシェルの体温を上げる。ぞくぞくとしたものが全身に広がって、お腹の奥が物欲しげに疼いたような気がした。
「ぁ……、もっと……」
思わずねだると、レナルドが嬉しそうに笑った。
「ラシェルが俺を欲しがってくれると、すごく嬉しい」
「だって、大好きな人にはいつだって触れたいと思うし、キスだってしたいの」
レナルドの首に腕を回して囁くと、彼の表情が柔らかく緩んだ。引き寄せられるように唇が重なり、むさぼるような口づけを繰り返す。
溺れてしまいそうな甘いキスをしながら、レナルドへの想いを隠すことなく伝えられる今の幸せをラシェルはあらためて実感していた。
レナルドから求婚された時は何かの間違いではないかと思ったし、想いが叶うなんて考えたこともなかった。
愛されなくても、ただそばにいたいと結婚を受け入れたことや、記憶を失ったレナルドのあまりの甘さに戸惑ったこと、そしてお互いが同じ気持ちであると判明した時のこと――。
そんな日々を越えて、臆することなくレナルドに愛を告げられるのが嬉しくてたまらない。
「愛してる、レナルド様」
キスの合間にそう告げると、レナルドはぱあっと花が開くような笑みを浮かべた。心から嬉しそうなその笑顔を見て、ラシェルはまた彼に惚れ直すような気持ちになる。
「うん、俺も愛してる。ラシェルは、俺の唯一だよ」
そう言ってまた降ってきた優しいキスを受け止めて、ラシェルは微笑んだ。
◇
その後二人は、何度も想いを告げ合いながら、甘く濃厚な時間を過ごした。
植物園には行けなかったけれど、レナルドが庭でお茶を飲むことを提案してくれたし、何よりラシェルにとっては彼と一緒にいられること自体が幸せなのだ。
ついつい盛り上がりすぎて、庭でのお茶会は夜になってしまったけれど、薄明りの中でのんびりと過ごす時間も、いいものだった。
「そういえば、隈が薄くなっているような……」
ふと気づいたラシェルは、レナルドの顔を見上げた。庭園灯に照らされた顔は、隈ひとつ見当たらない。それどころか、心なしか肌艶がよくなったような気もする。
「少しお昼寝したからかしら」
「きっと、ラシェルの膝枕効果だな。ラシェルに触れていると癒されるんだよ」
「ふふ、少しでもお疲れのレナルド様を癒せていたら嬉しいです」
「まぁ、俺にとっては、きみを抱くことが一番の回復薬だけど」
そう言って抱き寄せられ、こめかみのあたりに唇を押し当てられる。
「だから、あとでもう少し、癒してくれる?」
息を吹き込むように耳元で囁かれた言葉に、一気に頬が熱くなる。さっきまでベッドでたっぷりと愛されたはずなのに、まだ足りないと身体が疼き始めたような気がした。
「……あまり遅くならないなら」
前のめりで受け入れるのは少し恥ずかしくて、そんなことを言ったラシェルを見て、レナルドは笑いながらうなずいた。
「なるべく、加減するように努力する」
そう言ってくれていても、結局は朝まで眠れないのだろうなと思いつつ、ラシェルは彼の胸に身体を預けた。
そしてその予想通り、夜通し甘い時間を過ごすことになったのだった。


