塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
「そう受け取ってもらっても構わない。だが、今日から彼女は俺の妻だ。それだけは間違いない」

「……っ」

 揺るぎない口調で宣言されて、セヴランは悔しげに唇を噛んだ。まだ何か言いたげだったが、伯爵家が侯爵家にたてつくのは分が悪いと思ったのだろう。そのままセヴランは黙ってしまった。

「では、失礼する。行こう、ラシェル嬢」

 ラシェルの腰を抱いたまま、レナルドは歩き出す。うしろからセヴランがこちらをにらみつけているのを感じながらも、ラシェルは黙って歩いていた。

 馬車に戻ると、レナルドは腰を抱いていた手をサッと離してしまった。結局、セヴランに見せつけるためだけにそうしたということなのだろう。

 離れていったぬくもりを少し寂しく思いながらも、ラシェルは馬車に乗り込んだ。

 レナルドは、迷うことなくラシェルから一番遠い斜向かいに腰を下ろす。広い馬車の中では手を伸ばしても届かないその距離が、二人の関係をあらわしているようで切ない。

 馬車が走り出してもしばらく会話がなかったが、ふと何かを思い出したようにレナルドがラシェルを見た。

「少し気になっていたんだが……。きみの荷物は、随分と少なくないか?」

「え? あぁ、そうですね。身の回りのものといえば、下着や普段着が数着あれば充分ですから」

 思いがけないことを聞かれて内心で驚きつつ、ラシェルは苦笑する。嫁ぐにあたってラシェルが持ち込んだ荷物は、少し大きめのトランク一つだけなのだ。貴族令嬢の嫁入り道具としてはありえないほどに少ないことは自覚しているが、ブラン男爵家はなんせ貧乏なのだ。

「普段着だけでなく、女性はドレスやアクセサリーをたくさん持っているものじゃないのか?」
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