塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
「この先、私が夜会に出る機会なんてないでしょうし、夜会用のドレスなどは妹にお下がりとして置いてきました」

「……なるほど。我々は夫婦となったので、侯爵家の予算にはきみの名前も加わる。今後は、欲しいものがあれば気兼ねなく購入してもらって構わない。きみだってまだ若い女性なんだ、夜会用のドレスを一着も持っていないというのはあんまりだろう」

「そんなことを言って、私が湯水のごとくお金を使うような妻だったらどうするおつもりですか?」

 なんとなく場を和ませようと、冗談めかしてそんなことを言ってみたら、レナルドは真面目な顔で首を横に振った。

「きみがそんな人でないことは、よく分かっている」

「あ……。すみません、もちろんそんなつもりはないんですけど」

「むしろ、こちらに遠慮して必要なものすら購入しないというようなことがあれば困る。せっかくだし、この機会に普段用のドレスも何着か仕立てるといい」

「そ、そんな必要ないです!」

 慌ててそう言うと、レナルドは険しい顔で首を横に振った。

「それなら、こう言いかえよう。――俺の妻として相応しい装いをするために、ドレスを数着仕立ててもらう。今のところ予定はないが、夫婦で外出することもあるかもしれないからな」

「分かりました。……ありがとうございます」

 形だけの妻にもわざわざドレスを仕立ててくれるなんて、さすが侯爵家は裕福だ。ラシェルが小さく礼を言うと以降の会話はなく、馬車の中は沈黙が落ちた。

 向かいに座ったレナルドは窓の外に視線を向けていて、話しかけるなと言わんばかりのオーラを放っているような気がする。

 綺麗な横顔をさりげなく見つめながら、ラシェルは黙って馬車に揺られていた。
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