塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
ヴァンタール侯爵家は、想像以上に立派だった。迎えに来てくれた馬車の大きさからも薄々理解していたが、庭だけでブラン男爵家がすっぽりと入ってしまうのではないかと、ラシェルは思わず感嘆のため息をついた。
馬車の扉が開くと、先に降りたレナルドが手を差し出してくれた。
「今日からここがきみの家になる。再度伝えておくが、きみに妻としての役目は特に求めない。評判を落とすような真似をしなければ、自由に過ごしてくれて構わない」
「はい、承知しております」
レナルドの手を取ってゆっくりと馬車から降りると、大勢の使用人に出迎えられた。注目されていることに怖気づいてしまいそうになるが、優雅にと言い聞かせてゆっくりと姿勢を正し、笑みを浮かべた。今日からラシェルは、レナルドの妻なのだ。それ相応のふるまいが求められるに違いない。
貧乏男爵家の娘が侯爵家に嫁いでくるなんてと、陰口を叩かれるかもしれないと覚悟していたが、ラシェルに向けられる視線は好意的なものばかりだ。古くから仕えているのであろう年配の女性が嬉しそうに涙ぐんでいるのも目に入り、案外歓迎されているように思える。
レナルドが愛した女性との結婚であればもっとよかったのだけどと思いつつ、ラシェルは丁寧にあいさつを述べた。
「まずは、きみの部屋を案内しよう」
そう言ってレナルドが連れて行ってくれたのは、広く豪華な部屋だった。一応はラシェルも貴族ではあるのだが、侯爵家とは何もかもが違う。家具だって全て凝った意匠のものばかりで、見るからに高価そうだ。
「必要なものは揃えてあるつもりだが、足りないものがあれば購入してくれ」
「ありがとうございます」
「では、俺はこれで。コレット、あとは任せた」