塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
「名前……ラシェルと、呼んでください。私はレナルド様の妻……だから。他人行儀なのは、嫌です」

「……っ、分かった、ラシェル」

 少し掠れた声で名前を呼ばれ、ラシェルの身体は更に熱を増す。

 見上げたレナルドの顔は冷え冷えとした無表情で、何も感じていないように思える。きっとこんなにも身体を熱くしてるのは、ラシェルだけだ。



 ほとんどラシェルの身体に触れないまま、レナルドはラシェルを抱いた。

 彼の表情は淡々としたものだ。ただ義務的に抱いているだけという様子で、視線すら合わない。

 好きな人に抱かれるのなら、想いが伴っていなくても構わないと思っていたが、大間違いだった。

 胸の奥が痛むのを自覚して、ラシェルは強く目を閉じた。そうしていないと、うっかり涙を流してしまいそうな気がしたのだ。

――だけど、これは私が望んだことだもの。絶対に泣いたりしないわ。

 心の中でそうつぶやきながら、ラシェルはレナルドに抱きつく代わりに強くシーツを握りしめた。

 やがて身体を起こしたレナルドは、これで行為は終わりだと言わんばかりにそそくさとベッドから下りると、ガウンを身につける。そして、ラシェルを振り返った。

「……痛みは、ないか」

「大丈夫です」

 痛くないなんて真っ赤な嘘だが、ラシェルは無理に微笑んでみせた。それを見て、レナルドは少しホッとしたようにうなずいた。

「俺は……汗を流してくる。きみも湯を使うなら、コレットを呼ぶが」

「いえ、必要ありません」
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