塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
 病が発覚した時点ですでに手の施しようがないと言われていたが、高価な薬を取り寄せ、そのおかげで家族の別れの時間を長くとれた。

 だが、その薬のうち一つの支払いが、まだ済んでいないのだという。

 もともと高額な薬だったことに加えて利息が嵩み、請求された金額は目が飛び出るほどの額だった。家財道具を売り払っても、足りるかどうか分からない。

「支払いは全て済んでいたはずなんだが……。あの頃は、わたしも冷静な判断ができなかった。うっかり見落としていたのだろう。それにしたって高額すぎて、どうすればいいか……」

「大丈夫よ、お父様。少しずつでも返済していきましょう。私も、何か働き口を見つけるわ」

「そうだよ、皆で協力すればなんとかなるよ」

 頭を抱える父親を、ラシェルと兄のエリクとで必死に励ます。だが一括で返済できるほどの資産はないので、今後使用人の給料も払えなくなるかもしれない。もともと多くの人数を雇っているわけではないが、長年働いてくれた人々を急に解雇するのは心苦しい。

 ラシェルは自分の仕事を探しながら、使用人の再就職先も探すことになった。父と兄も、それぞれ金策に奔走していた。

 とはいえ借金を返済できるだけの額を工面するのは簡単なことではなく、一週間あちこち駆けずり回っても、かろうじて半分を返せる程度の額しか用意することができなかった。

 どうすればいいのかと家族皆で頭を悩ませていた時、ラシェルたちが集まっていた父親の執務室の扉がノックもなしに開いた。子供には聞かせたくない話だからと遠ざけていた妹がやってきたのかと思ったら、そこにいたのは隣の領地であるノディエ伯爵家の令息、セヴランだった。

「おい、ラシェル。せっかく会いに来てやったのに出迎えにも来ないなんて、どういうことだよ」
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