塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
「それに、『国内の派閥に影響がない』というのもよく考えられているな。そういうことにしておけば、きみとの結婚を反対する声を封じられる。侯爵家が男爵令嬢を妻に迎え入れるにあたって、これ以上の理由はない」

 結婚の理由を告げても、レナルドは全ていい方向に受け止めているようだ。そもそもの前提としてラシェルとレナルドが愛しあっていると誤解しているので、結婚の理由すら二人が結ばれるために対外的にはそうしたと考えているらしい。

「違……っ」

「ラシェル」

 あらためて二人の間に愛などなかったことを説明しようとしたが、レナルドに名前を呼ばれて思わず言葉を切ってしまった。更に彼は、腕を伸ばしてそっとラシェルの手を握った。触れあうぬくもりに、鼓動が速くなる。

「きみと過ごした大切な時間を忘れてしまって、本当に申し訳ない。でも、絶対に思い出すから。どうか、こんな俺でも変わらずそばにいてくれる?」

 切なげな表情で見つめられて、ラシェルの頬はじわじわと熱を持つ。

 この状況で、あなたは私を愛してなどいなかったなんて、言えるはずがない。

 記憶を失ったばかりで、彼も今は動揺しているだろう。本当のことを告げるのは、もう少し先にしよう。

 そう決めて、ラシェルはゆっくりとうなずいた。

「もちろんです、レナルド様。私は……ずっとそばにいます」

 告げた言葉は、ラシェルの願いでもある。できることなら、このままずっとレナルドと一緒にいたい。

 きっと記憶を取り戻せば、彼はラシェルを遠ざけるようになるだろう。レナルドが忘れているのをいいことに、二人の関係を勝手に変えようとしたと非難されるかもしれない。

 それでも今だけは、レナルドのそばにいたい。記憶を失った彼を支えるのは、妻として当然のことだから。
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