塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
 ついに堪えきれなくなった涙が、頬をつたって落ちていった。ぱたぱたと小さな音をたてて、シーツにこぼれ落ちていく。

 それに気づいたのか、レナルドが抱きしめる腕に力を込めた。

「ラシェル、泣いてるのか?」

「違……違うんです」

 慌てて取り繕おうとしたものの、声は不自然に歪んでいる。レナルドは身体を起こすとラシェルの顔をのぞき込んできた。目が合った瞬間、彼は苦しそうな顔になる。

「ごめん、俺のせいで……」

 必死に違うと首を横に振るものの、涙は止まらない。レナルドは低く唸るとラシェルを抱き起こし、強く腕の中に囲った。あふれた涙は、彼の寝衣に吸い込まれていく。

「どれほど愛を告げたら届くかな。本当に愛してるんだ。病院でラシェルの顔を見た瞬間に、泣きたくなるくらい嬉しくなった。誰よりも、何よりも愛おしいって、そう思ったんだ。どうして俺は、こんなにも大切な人との思い出を失ってしまったんだろう」

「分かってます、だからご自分を責めないでください。レナルド様が無事で、私もホッとして気が抜けてしまったのかもしれません。だから、安心して涙が出たんだと思います」

 必死に訴えると、レナルドはしばらくして小さくうなずいた。

「心配かけてごめん。もう泣かないで、ラシェル。泣き顔すら愛おしく思うのは事実だが、きみにはいつも笑っていてほしい」

 そう言ってレナルドは、まるで涙を吸い取るかのようにラシェルの頬に口づけた。そんなことをされたのは初めてで、衝撃で涙も引っ込んでしまった。

 左右の目元にそれぞれキスを落としたあと、レナルドはじっとラシェルを見つめた。淡い緑の瞳がいつもより濃く見えるのは、寝室の薄暗さのせいだろうか。

「ラシェル」
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