塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
「嫌ではないですけど、高価なものですから……」

「お金のことは気にしなくて構わない。俺が、ラシェルに俺の色を着てほしいんだ。だめかな?」

 そんなことを言われたら、断ることができない。きっとレナルドの記憶が戻れば、彼の色をしたドレスなんて着ることはなくなるだろう。だけど、たとえ偽りでも、ほんのひととき彼に愛されたという思い出にはなるかもしれない。

「では……ぜひ。楽しみにしています」

 ラシェルがそう答えると、レナルドは嬉しそうにうなずいた。

 食事を続けながら、レナルドはどんなドレスにしようかと楽しげに話し始める。かつては黙って食事をしていたことが嘘のようだ。ドレスのことだけでなく、天気のことや好き嫌いの話など、彼の話は止まらない。些細な内容であっても、会話をしながらの食事はとても楽しくて、ラシェルも気づけば笑顔で受け答えをしていた。

 以前と明らかに違う食事風景だが、そばに控える使用人たちも問題なく受け入れているようだ。むしろ、レナルドが幸せそうにしているので、微笑ましく見守られているような気がする。

 食後のお茶を飲んでいると、レナルドはわくわくとした様子でラシェルの名を呼んだ。

「ラシェル、今日は何をして過ごそうか。いつも休日はどうしていた? どこかに遠出したりしていたのかな」

「いえ……あの、そういうのはしたこと……なくて」

「え、一度も? 確か、結婚してから一か月は経っていたよな」

 怪訝な顔になったレナルドを見て、ラシェルはうつむいた。結局、いつまでも仲睦まじい夫婦のふりをし続けることなど無理なのだろう。

 覚悟を決めたラシェルは、彼の誤解を解くためにゆっくりと口を開いた。

「だって私たちは形だけの――」
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