塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
「ここ最近のレナルド様は大変お忙しく、休日も仕事に明け暮れておられましたから。仕事が大事なのは分かりますが、新婚早々に奥様を放っておくのはいかがなものかと、我々も気を揉んでいたのですよ」

 ラシェルと同じタイミングで話し始めたのは、執事のクレマンだった。彼はラシェルに視線で何かを訴えるような顔をしながら、話し続ける。

「ですからレナルド様、この休みの間はラシェル様との時間をたくさん作ってくださいね。体調のこともありますから、遠出は控えてゆっくりお過ごしください」

「そういえば、ユーグも似たようなことを言ってたな。俺はそんなにも仕事人間だったのか……。今の俺は、仕事よりも断然ラシェルと過ごしたいけどな」

「庭でお茶をされるのはどうでしょう。今はちょうど、薔薇が見頃ですよ」

「うん、いいな。ラシェルはどうかな? きみは薔薇の花が好き?」

「え、えぇ。薔薇の花は好きですし、とてもいい考えだと思います」

「せっかくだから、茶菓子にもこだわりたいな。ちょっと厨房に頼んでこよう」

 うきうきとした様子でレナルドは席を立つと、厨房へと行ってしまった。残されたラシェルのもとに、クレマンがそっと近づいてくると小さく頭を下げた。

「申し訳ありません、ラシェル様。ドレスのこともそうですが、勝手に口を挟んでしまいました」

「それは構わないけど、やっぱりレナルド様には私たちの関係がどういうものであったか、ちゃんとお話しすべきだと思うわ」

「ラシェル様……」

 言葉に詰まるクレマンに、ラシェルは苦い笑みを浮かべてみせる。

「だって、私たちはこんなに仲睦まじい夫婦ではなかったもの。あなたたちだってよく知っているでしょう。このまま黙っているのは、騙しているようで心苦しいわ」
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