塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
 密着することにはいつまでたっても慣れないし、先程のキスの名残で鼓動はまだ速いままだ。

 冷静にと心の中で言い聞かせて、ラシェルはテーブルの上に視線を向けた。

 白い大きなテーブルの上には、さまざまな種類の菓子が並べられている。薔薇の花を模した焼き菓子や、花びらを使ったゼリーなど、どれも見た目にも美しい。

「気に入ってもらえた? ラシェルの好きそうなものを色々と用意したんだ」

「えぇ。どれもすごく綺麗で、とても美味しそうです」

「それはよかった。お茶を淹れようか」

「あっ、それは私が」

「いいんだ。今日は俺がラシェルをもてなすって決めてるから」

 立ち上がろうとしたラシェルを片手で制して、レナルドは慣れた手つきでお茶を淹れ始める。ティーポットにお湯を注げば、ふわりと甘い香りが漂った。

「さぁ、どうぞ」

「ありがとうございます」

 ティーカップと一緒に差し出されたのは、砂糖の載ったプレート。そこに並べられた角砂糖の上には、小さな薔薇の花が乗っている。どうやら砂糖菓子で作られた花のようだ。

「素敵なお砂糖ですね」

「薔薇の花だし、今日のお茶会にぴったりだろう?」

 どこか得意げな様子から、これを用意してくれたのはレナルドなのだろう。ラシェルはピンクの薔薇が乗った角砂糖を選ぶと、ゆっくりとティーカップに沈めた。しばらくすると、水面にぷかりと小さな薔薇の花が浮かび上がってくる。

「可愛い……!」

 じっと見守っていると、小さな花はゆらゆらと揺れながらやがて紅茶に溶けて消えていった。ほんのひとときだけ楽しめる砂糖の花というのは、儚くて綺麗だなと思いながら、ラシェルはカップを口に運んだ。甘い薔薇の香りが、ふわりと鼻を抜けていく。
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