塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
「美味しそうに食べているラシェルを見ているだけで、俺は幸せだから。そうだ、とっておきのものを食べよう」

 そう言って、レナルドはテーブルの中央に置かれた小さな金の缶に手を伸ばした。手のひらに収まるくらいの大きさのそれを手に取って蓋を開けると、また甘い薔薇の香りがした。

「それは?」

「薔薇の花びらの砂糖漬けだ。紅茶に入れたり菓子の飾りとして使われたりすることが多いんだが、そのまま食べるのも美味しいんだ」

 ほら、と言ってレナルドはラシェルの口元に花びらを一枚差し出した。深紅の薔薇の花びらが、白い砂糖の衣を纏っている。見た目も美しく、とっておきだとレナルドが言うのもうなずける。

「ラシェル、口を開けて」

「っ、はい」

 囁くように命じられて、ラシェルは躊躇いがちに唇を開いた。鼻先をくすぐる香りはそれほど強くないのに、じっと見つめるレナルドの視線のせいか香りに酔ってしまいそうだ。舌の上に花びらが触れた瞬間、花びらはほろほろと崩れて小さくなっていき、口の中は薔薇の香りでいっぱいになる。そのまま咀嚼しようとしたが、レナルドの指がラシェルの口の中に侵入してきて、舌をくすぐった。

 驚いて身を引こうとしたが、いつの間にか後頭部に回された手がラシェルの動きを封じる。まるで舌の形を確かめるように、ゆっくりと指先で撫でられて、声も出せない。そうこうしているうちに悪戯な指は、舌だけでなく口内を探るように動き始めた。その動きにさっき交わした深いキスを思い出してしまい、ラシェルの身体はどんどん熱くなる。

「俺も食べたくなってきたな」
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