塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
 令嬢たちはものすごい速さでラシェルの方に近づいてくる。にこにことした笑顔を浮かべているが、彼女たちの目はひとつも笑っていない。旧姓で呼ばれたことも含めて、ラシェルのことを認めていないというのがありありと伝わってきて、思わず逃げだしたくなる。だがそれを堪えて、ラシェルは懸命に口角を上げた。

「ごきげんよう、皆様。わざわざお越しくださりありがとうございます。ですが、レナルド様は……」

「わたくし、父が懇意にしている医者をご紹介しようと思っているの。だから、今すぐにレナルド様を呼んでくださらない?」

「わたくしは、領地で採れたフルーツをお持ちしましたの。滋養強壮効果があるから、レナルド様のお見舞いにぴったりだと思って。召し上がり方のご説明もしたいし、直接お渡ししたいのよ」

「わたくしたちは皆、レナルド様が心配で心配でたまらなくて、こうして駆けつけたの。彼を慕う令嬢はほかにもたくさんいるけれど、わたくしたちが代表で伺ったのよ。お顔も見ずに帰ったら、他の方々に顔向けできないでしょう。だから――」

 ラシェルが話すのをさえぎって、令嬢たちは次々に訴えかけてくる。

 その時、ラシェルの身体をうしろから誰かが抱きしめた。ふんわりとしたそのぬくもりが誰のものなのかは、昨晩ずっと包まれていたから分かる。

「レナルド様……!」

 ラシェルと同時に、令嬢の口からも驚いたような声が漏れる。

「お忙しいところ見舞いに来てくださり、ありがとうございます。ですが、お気持ちだけいただきます。この通り、問題なく元気にしておりますから、心配には及びませんよ」
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