塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
「あぁ、ごめん。そんなに照れないで、ラシェル。昨晩のことは俺ときみだけの秘密のはずだったね」

 蕩けそうなほどの笑みを浮かべながら、レナルドは再びラシェルの頬に口づけた。

 記憶を失う前のレナルドならありえないほどの甘い愛情表現に、令嬢たちはぽかんと口を開いた。

「……レナルド様が、そんな顔をするなんて」

 あっけにとられた様子で、令嬢の一人がぽつりとつぶやく。

 非常に女性人気の高いレナルドだったが、これまでの彼はどんな美しい令嬢に声をかけられても一切反応しなかった。ラシェルが夜会で遠目に見かけた時も、レナルドは多くの令嬢の誘いを冷たい無表情で断っていた。それが孤高の雰囲気で素敵だと言われていたのだが、今の彼はラシェルだけに優しい表情を向けている。

 どう見てもレナルドがラシェルに夢中であると見せつけたためか、彼女たちもあきらめざるを得ないと納得したのだろう。訪ねてきた時の強気な様子はどこへやら、失恋したような面持ちで押し黙ってしまった。

「わざわざお越しいただいたことは、心から感謝いたします。また夜会などでお会いした際には、妻共々仲良くしてもらえると嬉しいです。では、俺たちはこれで。クレマン、彼女たちに自家製の薔薇のジャムをお渡ししてくれ」

 よそいきの笑顔でレナルドがそう告げると、クレマンが近づいてくる。ヴァンタール家特製の薔薇のジャムは、王女のお気に入りということもあって貴族令嬢には憧れのアイテムらしい。見舞いの礼としてもらえると聞いた令嬢たちは、それならと納得したようにうなずいた。

 あとの対応は執事に任せて、レナルドはラシェルの腰を抱いてその場を離れた。 
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