塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました

もしかして

 思わぬ来訪者のおかげでいつもより少し遅めの朝食をとったあと、ラシェルは書庫に向かうことにした。レナルドは少し運動をしないと身体が鈍るとのことで、屋敷のまわりを何周か走ってくるらしい。さすがにラシェルが一緒に走るのは無理なので、読書をして過ごす予定だ。

 あとで、部屋でゆっくりお茶をしようと約束をしているので、コレットが張り切って髪を結ってくれた。

 昨日から読んでいた本の続きを読み終えて、ラシェルは次に何を読もうかと考える。

 以前は手が遠のいていた恋愛小説がふと読みたくなって、ラシェルはソファから立ち上がると本棚へと向かった。書庫内の本棚は大まかにジャンルで分けられていて、恋愛小説は部屋の左側にある本棚に集められている。

 どれにしようかと考えながら、ずらりと並んだ背表紙を眺めたラシェルは、本棚の最上段にある一冊に目を止めた。それは、以前読みたいと思っていた作品だ。

「ずっと気になっていたのよね」

 そうつぶやいて本を取ろうとするが、手を伸ばしても届きそうにない。本棚は天井に届くほど高く、背伸びをしても無理だろう。

 誰かに頼んで本を取ってもらえばいいのだろうが、基本的に自分のことは自分でしてきたので、あまり人に頼ることが得意ではない。

 ラシェルは壁に立てかけられた脚立を運んでくると、目当ての本の前に置いた。折り畳み式の脚立は掃除の際に使われるものだが、それに乗ればラシェルでも本に手が届きそうだ。

 そっとドレスの裾をたくし上げて脚立に登り、そろそろと立ち上がる。背伸びをして思い切り手を伸ばせば、指先が背表紙にかかった。

「あと……ちょっと、なんだけど」

 少しずつ本を引っ張り出そうとするが、本棚にきっちりと納められた本を動かすのはなかなか難しい。
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