塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
 再び背伸びをして手を伸ばした時、脚立がみしりと軋む音がした。

「あ……っ」

 ぐらりと脚立が傾き、バランスを崩したラシェルは慌てて手をさまよわせた。だが本棚に捕まろうとした手は空を切り、斜めになった身体を立て直すことができない。

 落ちる! と覚悟して目を閉じた時、レナルドの声が聞こえた。

「ラシェル……っ!」

 叫ぶように名を呼ばれたと思った次の瞬間、ラシェルの身体は弾力のあるものに受け止められていた。

 恐る恐る目を開けると、すぐそばにレナルドの顔があった。どうやら彼が抱き止めてくれたようで、ラシェルの顔を確認したレナルドはホッとしたように表情を緩める。

「……よかった」

「ありがとうございます……」

 しっかりと抱きしめられているのが恥ずかしくて、ラシェルはそっと彼の腕から抜け出た。鼓動が速いのは、きっと転落の恐怖のためだ。

「危ないことはしないでくれ。きみが落ちそうになっているのを見て、血の気が引いたよ」

「すみません」

「いや、ラシェルが無事で本当によかっ……」

 言いかけたレナルドは、突然顔をしかめると片手で額を押さえた。苦しげな表情に、ラシェルは慌てて彼の顔をのぞき込む。

「レナルド様?」

「っ、大丈夫、だ。なんともない」

 明らかに平気ではなさそうな様子に、ラシェルの胸が騒ぐ。手で押さえているのは怪我をした場所ではないので、傷口が傷んでいるのではなさそうだ。

 だとすれば、考えられるのは彼の記憶が戻った可能性。

 鼓動が更に速くなったのを自覚しつつ、ラシェルは再びレナルドの名を呼ぶ。

「レナルド様、もしかして、記憶が……」

 恐る恐る問いかけると、レナルドはゆっくりと額を押さえていた手を下ろした。
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