塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました

 少し離れてソファに腰かけたレナルドは、ラシェルにお茶を勧めたものの黙ったままだ。眉間には皺が寄っていて、何か考え込んでいるように見える。

「レナルド様、やはり体調がよくないのでは? 大丈夫ですか?」

 思わず声をかけると、彼はハッとしたようにラシェルを見た。その顔に、ゆっくりと笑みが浮かぶ。

「いや、平気だ。心配かけてすまない。さっき……ラシェルが階段から落ちそうになったのを思い出したら、すごく怖くなってしまったんだ。きみが怪我をしていたらどうしようって」

「レナルド様のおかげで、私は怪我ひとつありませんでしたから。でも、以後気をつけます……」

「うん。きみを守れてよかった。普段鍛錬をしているかいがあったな」

「ふふ、そうですね。とっさに駆けつけて助けてくださるなんて、さすが騎士だなって思いました」

 ラシェルの言葉に、レナルドは照れたように頬を緩めた。ようやく彼が穏やかな表情になったことに安心してカップを口に運ぶと、同じようにお茶を飲み始めたレナルドが、ラシェルを見て目を細めた。

「今日のドレスも、すごくよく似合ってる」

「ありがとうございます。少し地味なのですが、着心地がよくてお気に入りなんです」

「地味なんてことない。シンプルだからこそ、ラシェルの可愛らしさが際立ってとてもいいと思う」

 実家から持ち込んだ地味で古臭いデザインの普段着なのだが、レナルドは『愛する妻』という偽りのフィルターを通してべた褒めしてくれる。

「……昨日言っていた、俺の色のドレスを仕立てたら、本当に着てくれる?」

 じっと見つめられて、ラシェルはもちろんとうなずいた。レナルドの瞳の色を身に纏うことができたら、とても幸せだと思う。

「相手の色を身につけるというのは、二人の仲を周囲にアピールするためによく行われることですもの」

「それはそうなんだけど……。ラシェル自身の気持ちはどうなのかなって」

「私自身の気持ち、ですか?」
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