塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
 彼の質問の意図がよく分からず目を瞬くと、レナルドはそれを取り消すように首を横に振った。

「いや、いいんだ。ドレス、楽しみだな」

「えぇ、私も楽しみにしています」

 微笑んで、ラシェルはまた紅茶を飲んだ。

 しばらく他愛のない話をしていると、不意にレナルドがラシェルをじっと見つめた。どうしたのだろうと首をかしげると、彼は少しラシェルに近づくように座りなおした。

「どうしたんですか、レナルド様」

「もう少し近くに行ってもいい?」

「え? もちろんです」

 昨日のお茶会では彼の膝の上に座っていたことを考えると、今の二人は離れすぎているくらいだ。うっかり昨日の甘いお茶会のことを思い出してしまったラシェルは、熱くなった頬を隠すようにうつむいた。

 レナルドはラシェルのすぐそばに腰を下ろすと、そっと腕を伸ばしてきた。どこか躊躇うようなその腕は、やがてラシェルの腰に回される。引き寄せられるまま身を任せれば、彼の肩に身体を預けるような体勢になった。

 こうした触れあいにはまだドキドキしてしまうが、きっとまたキスをするのだろうと心の中が期待で騒ぐ。だが、レナルドはラシェルを抱き寄せただけでそれ以上のことはしてこない。

 自分から誘うのはさすがに恥ずかしくてできないが、一向に何もしてこないレナルドが気になって思わず顔を見上げると、彼はただ黙ってじっとラシェルを見つめていた。

「レナルド様?」

 名前を呼ぶと、彼はすぐに笑顔を浮かべた。さっきからずっと似たような反応をしていることが気になって、ラシェルはレナルドの頬にそっと手を伸ばした。

「やはりどこか調子が悪いのでは? 熱はないみたいだし……頭の傷は痛くないですか?」
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