塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
「あ、いや、問題ない。大丈夫だ。その、なんていうか……きみが可愛くて見惚れてた」

「えっ?」

 何を言い出すのかと目を瞬いてしまうが、レナルドは照れくさそうな顔をしながら頭をかいた。

「ずっときみのことが好きだったから、今一緒にいられることの幸せがまだ信じられないんだ。夢なんじゃないかなって、目を離したらきみがいなくなってるんじゃないかなって、少し不安になるくらい」

「私は確かにレナルド様の妻ですよ。ずっと一緒にいます」

「うん。こうやってラシェルに触れていたら、それを実感できる」

 そう言ってレナルドはラシェルの身体を抱き寄せた。しっかりと彼の腕の中に包み込まれて、鼓動が速くなっていく。

「ラシェル、好きだ。愛してる。どうか、ずっと俺のそばにいて。誰よりも、何よりも大切にするから……」

「レナルド様……」

 耳元で囁かれた愛の言葉が嬉しくて苦しくて、胸が震える。この幸せが消えてしまうことを恐れているのは、ラシェルの方だ。彼の記憶が戻ったら、この甘い日々も夢のように消えてしまう。

 思わず涙ぐみそうになったが、レナルドが顔をのぞき込んできたので隠すことができない。ラシェルをじっと見つめた彼は、切なげに眉を寄せた。

「ラシェル、泣いてる?」

「レナルド様の言葉が、嬉しくって……。すごく幸せだなって思ったら、涙が……」

 彼の言葉が嬉しいのは嘘ではない。心の中で何を思っているかは告げず、涙の理由をごまかすと、レナルドはそんなラシェルも可愛いと微笑んだ。

 そのまま頬に手を添えられ、上を向くよう促される。お互いの吐息がまじりあうほどの近さで見つめあい、レナルドは小さく首をかしげた。

「……いい?」
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