塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
「私がレナルド様と結婚することで、ヴァンタール家にはどんな利益があるのでしょうか。レナルド様に求婚されるほどの価値が、私にあるとは思えません」

「ご自身を卑下するのは、よくありませんよ」

 レナルドが穏やかな口調でそう言ってくれるが、ラシェルは苦笑するしかない。だって彼とは身分が違いすぎる。ほとんど交流したことのない相手と結婚したいと望むなんて、裏に何かあるに決まっている。

 やがてレナルドは、少し表情を緩めると小さく息を吐いた。

「もちろん、こちらにも益があると判断してのことです。俺もそろそろ身を固めなければならないのですが、相手探しに少々難航しておりまして。言い方が悪いのは承知の上ですが、どこの派閥にも属していないブラン男爵家は、とても都合がいいのです」

「あぁ……」

 レナルドの言葉に、ラシェルと父親は同時にうなずいた。

 この国は、二大公爵家と呼ばれる二つの派閥に分かれている。一方は王弟、もう一方は古い歴史を持つ家で、政治の主導権を巡って熾烈な争いを繰り広げているらしい。ラシェルの家は末端の貴族ということで派閥とは全く無縁なのだが、ヴァンタール侯爵家は王弟派寄りでありつつも、絶妙なバランスでどちらとも適度な距離を保っていることは知っている。

 侯爵家に見合う高位貴族はどちらかの派閥に属しているため、レナルドの結婚を機に片方の派閥へ勢力が傾くことを危惧しているのだろう。

 ラシェルの父親も、納得したようにうなずいた。

「なるほど、事情は分かりました。確かにうちと縁を結んでも国内の派閥に影響はありませんからな」

「ご理解いただけて嬉しいです。――それで、返事をお聞かせ願いたいのですが」
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