塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
 並んで歩きながら軽く自己紹介を交わし、彼の名がレナルド・ヴァンタールであることを知る。侯爵令息である彼は、騎士団でもめきめきと頭角をあらわしていると聞いたことがある。高位貴族で優秀な騎士であることに加えてこの美貌だなんて、恵まれている人はすごいなと感嘆の思いで見つめてしまう。

 そして、こんな素敵な人に命を救ってもらったラシェルは、ずっと胸がときめきっぱなしだ。同じ貴族とはいえ、彼とラシェルでは身分が違いすぎるのだが、そんなラシェルにもレナルドは柔らかな物腰で話しかけてくれる。恐怖に怯えたままのエマやジャンにも優しい声をかけてくれた。

 もっと話していたいと思ったが、あっという間に建物に到着してしまった。他の騎士が子供たちを守ってくれていたようで、このあと防護柵の補修もしてくれるという。レナルドも周囲の見回りをしに行くというので、ラシェルはあらためて彼に礼を言った。

「本当にありがとうございました。レナルド様が来てくれなかったら、今頃はどんなことになっていたか……」

 深々と頭を下げたラシェルは、ふと彼の左手の甲に傷があることに気づいた。引っかかれたような傷は真新しく、血が滲んで痛々しい。

「大変! レナルド様、手に怪我をしています。治療をしなければ」

「あぁ、これくらい大したことありません。ちょっと魔獣の爪が掠っただけですし、治療をするまでもありませんよ」

「でも、血が出ています」

 孤児院の医務室へ案内しようとしたが、彼は必要ないと言うばかりだ。考えた結果、ラシェルはポケットからハンカチを取り出した。そして、レナルドの手を取ると傷口にハンカチを巻きつける。きゅっと強めに結ぶと、白いハンカチにじわりと血が滲んだ。

「ラシェル嬢、そんなことをしてもらわなくても」
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