蝶よ花よ、あこがれに恋して


桜庭さんは、とてつもなく濃厚で、一瞬も油断出来ない時間をつくりだすひと。

あの瞬間を生み出す彼の力になりたい。

だから、1ヶ月わたしは悩んだ。私の一生を決めるにはとても短い時間だけど一所懸命に。

毎日悩み、正解を探し、桜庭さんの家で答えた。


「私、桜庭さんと一緒にはいけません」


私が出したのは、行かないという答え。


「Vさんの元でスポーツ栄養の基礎知識を学んで、桜庭さんを追いかけます!」

より専門的な知識が必要な仕事だ。私の責任は重大で、だからこそ生半可な気持ちでは支えられないと判断した。

私の決断を、桜庭さんは瞬きもせず「そっか」と、受け入れた。

「しばらくは、遠距離ですが…」

そう、決めたのは私なのだ。誰かに言われて決めたのではない。私が、一緒に行かないと、決めた。

なのに涙がぽろぽろとこぼれて、泣くなといくら命令しても、涙腺が壊れたのか全く止まりそうにない。

「……私のこと、忘れないでくださいー……」

泣きじゃくる私を桜庭さんは抱きしめ「忘れるわけないよ」と、笑った。

「毎日zoomしよう」

「はい!寝落ち通話、したいです」

「絶対活躍して、心鈴ちゃんの耳にひとつでも多く入るように頑張るわ」

「はい。一番に応援します」

「帰国したら必ず一番に会いに行く」

「はい。……私も会いたいです」

独りよがりな私のわがままを丸ごと受け入れてくれる人。毎日を特別な日に変えてくれる人。そんな彼と並んでも恥ずかしくないように、彼に安心してもらえるように、一番の理解者で居られるために。

未来のために、離れる決断をした。
< 133 / 137 >

この作品をシェア

pagetop