蝶よ花よ、あこがれに恋して
これは案外大問題じゃない?
今夜聞くべきじゃない?
今夜まで持つ?今から試合だよ?試合後の私は興奮してこのモヤモヤも忘れてるんじゃない?
《志邑さん、私の事、いつ好きになったんですか??》
急ぎ、メールを送る。おそらく彼は試合前のミーティング中なので返事は期待しない。
《どうしたの急に》
しかしまだ時間に余裕があったのか、志邑さんのレスポンスは早かった。彼はいつ何時でも甘やかし上手なので、私が調子に乗るのは容易いことだった。
《気になったんです。教えてください》
私の興味は常に無くならない。彼のことを好きな証で、飽きることなく湧き上がるこの感情を、彼は毎回受け止めてくれる。
《今日の試合に勝ったらね》
さらに、彼は私の興味対象に居続けるどころか、こうやって負けられない試合を増やすので困る。
夕暮れのオレンジが夜の帳に変化した頃、スタジアムは熱狂の坩堝と化していた。緑のピッチはまるで戦場のようだ。彼らは己の誇りを賭けて駆け巡る。観衆の叫び声が雷鳴のように響き合い、心臓の鼓動すら飲み込む世界。
近頃は試合の結果よりも、どうか怪我をしないでと祈る方が強い。
試合終了のホイッスルが鳴り響く。鳴り止まない応援歌と歓声が、彼らの健闘を称えている。
恋に恋して、あこがれていた。
好きになるより、あこがれていたほうが楽だったからだ。
そんな私の背中を押してくれる人。
私は、彼が帰り着く場所でいたい。
戦う彼の、安心出来る場所で居続けるために、両手を広げているの。
「おかえりなさい、志邑さん」
「ただいま、心鈴」
⋆ ˚。⋆ 𝜗𝜚 ꙳
蝶よ花よ、あこがれに恋して【完】


