蝶よ花よ、あこがれに恋して


「桜庭さんに会いたいよ〜〜〜!!!」


本音は桜庭さんに言えないので、かわりに、イブというバスケバカを居酒屋に召喚した。

「アイドルなんでしょ。テレビ見ろ」

イブは涼しい顔で正論を吐き出し、レモンサワーを煽った。友達の少ないイブは私が飲みに誘えば大体来てくれるので、非常に助かっている。

「アイドルなんだけど、メディア露出が少ないみたいでさあ……」
「ああ……おまえは踏み台か。そうやって金を搾取されてるわけね」
「搾取されてません!!」
「今からむしり取られていくんだろ」

来てくれるのは非常に助かるのだけど、イブはもうすこし、私への配慮と桜庭さんへの思い遣りを覚えて欲しい。カシスオレンジをおかわりして、それから蛸の唐揚げを箸で転がす。

「私に金銭的なものを要求する人じゃないんだよ、桜庭さんは」
「じゃあ何を求められてんの」
「ご飯とか、掃除とか」
「母ちゃんか」

なるほど、桜庭さんにキュンと癒しを求めるかわりに、私は母性を求められているのか。
わかるよ。子供を産んだことはないけれど、桜庭さんを見ていると母性が溢れる、ということばが理解出来る。

この世はギブとテイク。一方が与え続ける関係はいつか破綻するならば、私と桜庭さんの関係は、この方程式がいちばん正しい形なのかもしれない。

「腑に落ちた」
「簡単に落ちんな。もっと思考回路を使え」
「桜庭さんに会いたいよ〜〜!」
「思考回路を使ったら煩悩が現れんのか、お前の頭は」

ちがう。桜庭さん不足によって私の脳みそはストライキを起こしているのだ。会わせるまで働かないぞ、自分の身体にそんな意志を感じる。

「ビデオ通話頼めばいいじゃん」
「イブ、天才?」
「お前があほなだけ」

まじで騙されんなよ……と、白い目を向けられるけれど、桜庭さんになら例え騙されても仕方ないやって思っちゃうほど、近頃の私は桜庭さん贔屓が著しい。
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