蝶よ花よ、あこがれに恋して
もう、30分以上玄関に滞在しているのでは無いか、そんな錯覚に陥ってしまうほど心臓がフルスロットルだ。
「……あ、ごはん、今すぐ作ります」
「えー……もう作るの?」
「作ります、真心込めて作らせていただきます!」
これぞ逃げるチャンスだとくるりと振り返り、桜庭さんと対面すれば一生懸命アピールした。
千載一遇のチャンスに、私はそれ以外考えられなかったのだ。桜庭さんの顔が近づいていることなど気づかず、いや、そんなはずないと決め込んでいたから、桜庭さんの唇が重なることに抵抗などなかった。
触れるだけのキス。けれども戸惑いは必然だ。
頬の熱が身体中を駆け巡り、末端神経まで行き届く。
「顔、赤」
桜庭さんが微笑む。それさえ、私の困惑を増加させる一因となる。
「もっかいしていい?」
なんで、という疑問はすでに私だけのもので、桜庭さんは催促する。
「ご、ごちそうさまです!!わ、私、お、おなかがいっぱいなので、もう、結構です!!」
しどろもどろになって答えれば「なにそれ」と桜庭さんは楽しそうに破顔し、それから「じゃあ、また今度ね」と、予告を追加させた。
桜庭さんは悪い人だ。こんなの、勘違いしても仕方ない。私がうっかり勘違いでもしたら、桜庭さんは責任、取ってくれるのだろうか。