蝶よ花よ、あこがれに恋して




「……あ、」

短く逡巡する。いくつか重ねたあれはご褒美?それとも約束?

「俺が帰ってきたら」

促すように甘い声を流し込まれ、心臓とは別の場所がキュンと疼いたのもまた、桜庭さんが甘すぎるせいで、仕方ないと思う。

「て、手料理……ですか?」

桜庭さんの身体が揺れた。間違いだと確信した。抱きしめられているせいで私も揺れる。

「チケットは俺が取るって言った。早速週末あるけど、仕事?」
「え……、あ、時間は……」
「16時から」

背後から重さを追加され、腰を軽くおり曲げる。桜庭さんの香りがご褒美で、毒で、脳内ではシフトの画面を流すけれど、何度も見たシフトはなかなか上手に照合できない。

「い……いけます」
「翌週、水曜の午後は?」
「よ、翌週?」
「あ、めんどう。今度シフト送って?それに合わせて取るから」
「(まさか、全試合??)」

嘘だよね、嘘って言って欲しい、けれども、いまの桜庭さんに「嘘ですよね?」は火に油だと何故か理解してしまう。

「あの、お気持ちは大変嬉しいのですが、そんな烏滸がましいことは……」
「俺、心鈴ちゃんに避けられて、めちゃくちゃ傷ついた」
「行きます、応援グッズを手作りして参戦します」
「ありがと」

くすくすと笑いながら桜庭さんは体勢を戻し、私のお腹に腕を回し手を組んだ。

拘束を解くのはまだなのですね。

罪人は受け入れる。
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