蝶よ花よ、あこがれに恋して


指定された入口にて、受付で名前を言えば、IDをもらった。首から下げられるよう指示され、その通りにする。


「……え?……は?…………誰?」


すると、次に受付を済ませていた誰かが、私を見て怪訝な声を出した。

誰、と言われて名乗るものでは無いので無視する。私に話しかけてきたのは、キャップを深く被り、シンプルなTシャツにブランド物らしいパーカーを羽織った男性だ。

最近どこかで見たことがある人だなあ、と、そんな不思議な錯覚を認めるけれど、残念ながら、私に国宝級イケメンな知り合いはいない。あ、いた。桜庭さんだ。

「いや、ちょい待て。おまえ桜庭志邑の関係者?」

「え、なんで分かるんですか?」

「IDとユニフォーム」

言われて気づく。ユニフォームだけじゃなく、タオルまで桜庭さんだし、これで桜庭さんの知り合いじゃないと言うのは酷だ。

「そうですけど……」と観念すると、その人はますます眉間の皺を深くさせ「……どんな関係?」と訊ねた。どんな関係?どんな、と言われても……。

「ご近所さん、です……」

「は?あいつはただ近所に住む知り合いを試合に呼ぶような男じゃねえよ」

「知りませんよ、ご近所さんですもん」

「絶対違う」

違うと言われても……他に言いようが……。

考えを逡巡させていると、先日のキスが思い出された。
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