蝶よ花よ、あこがれに恋して
考えを逡巡させていると、先日のキスが思い出された。
その瞬間、頬へ尋常じゃない程の熱が通うのが分かった。

「顔、真っ赤」

「……っ、……!!」

揶揄われていることを認める。

「あ、あなたこそ、誰……」

悔し紛れに言いかけて、何かと合致した。そうだ。この人……桜庭さんの家のフォトフレームで見た、桜庭さんと一緒に写っていた人だ。あれは……。

「えっ、待って、Toki?Tokiですよね?なんで?」

「中学からの知り合い」

私の質問にTokiはあっさり答えた。

えっ、すごすぎない?国民的アイドルのビジュ担当のToki??いや、あのグループ、総じて顔面偏差値、というか等身が同じ人間じゃないんだけど……その人が桜庭さんの幼なじみ?何この世界線、尊すぎる。この二人と同じ空間に居たら消し炭になる自信がある。その尊さがエネルギー変換されて今なら50m走も8秒台で走れそうだ。

Tokiは行き先を知っているのか、人通りの少ないスタジアム内の通路を歩いていく。私も同じく並んで歩く。ダッシュはしない。

「あんたのはサクが勝手に用意したんだろ、チケット」

そしてさすが幼なじみ。桜庭さんの行動も知っているらしい。

「そうです。桜庭さんはとても優しい人ですよね!」

「俺の知ってる桜庭志邑は他人に無関心で単なる知人を誘わない。俺も言わねえとチケット取ってくれねえし」

「そうなんですか!?」

「幼なじみのチケットは渋るくせに、ご近所さんのチケットはあっさり取る桜庭、や〜さしいねえ?」

嫌味たらしく言われて口を噤む。
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