優しい雨が降る夜は
(ふうん。友利さん、全国ツアーをやるんだ。すごい人気ね)

お弁当を食べたあと、美月はお茶を飲みながら雑誌をめくる。
そこにはツアーの日程がズラリと書かれ、来年の3月まで続いていた。

(あれ? ファンレターの宛先はこちらって、もしかしてマネージメント会社と契約したのかしら。それはそうよね、一人でコンサートを企画したり、プログラムやチラシを作ったりするなんて、到底無理だもの。ファンクラブも、すぐに出来そうね)

もう一度ページをめくり直し、インタビューの記事をじっくり読んでみる。

『凱旋公演を振り返っていかがですか?』という質問に、長文で答えていた。

『とても良い時間でした。初めは、果たして自分のリサイタルに来てくださる方はいらっしゃるのかと不安でしたが、どこに行ってもみなさんが温かく迎えてくださって。なによりも一番の収穫は、人との出会いです。これまでずっと練習室でひたすらピアノに向かう生活でしたが、リサイタルを開くとありがたいことに直接感想を伝えていただけます。もちろん、ピアノの技術的なことについてお言葉をいただくのも嬉しいのですか、ピアノに詳しくない方、曲名を知らずに私の演奏で初めてその曲を聴いてくださった方のお言葉は、新鮮でとても嬉しいものでした』

曲名を知らずにって、私のことみたい、と苦笑いしながら読み進めると、まさにそのことについて書かれていた。

『具体的には、あるエチュードをアンコールで弾いた時です。曲名でも技巧についてでもなく、ただ私の演奏を聴いて感じたことを真っ直ぐに伝えてくださった方がいました。私が演奏で表現したかったイメージを感じ取り、目をキラキラさせながら話してくださったその人の言葉は、今でも私の心の中の宝物です』

え……と、美月は思わず両手で頬を押さえる。

(待って、これって私のことじゃないよね?)

あの時、確かに自分は友利に感想を話したが、ここまで感激されるようなことを言った覚えはなかった。

(誰か別の人が、同じように曲名を知らずに素敵な感想を話したのよ。うん、そうに違いない)

そう言い聞かせて頷くと、美月は雑誌を閉じて立ち上がった。
< 24 / 94 >

この作品をシェア

pagetop