優しい雨が降る夜は
「着いたよ」

1時間ほど走ってから、高速道路を降りてすぐの場所に優吾は車を停めた。

「ここって、道の駅、ですか?」
「そう。新鮮な野菜や果物や魚とか、この土地の採れたてのものを売ってるんだ。さすがにここには、君を追いかけて来る人はいないだろう?」
「そうですね。私も意表を突かれました」

感心していると、運転席を降りた優吾が助手席に回ってドアを開け、手を差し伸べる。

「どうぞ」
「介助いただき、ありがとうございます」
「……君っていくつなの?」
「突然の年齢確認ですか? 現在は24歳、今年で満25を迎えます」
「稀に見る24だな」

優吾の手を借りて車を降りると、美月は辺りを見回した。

のどかな田園風景が広がり、空気が新鮮に感じられる。

思わず深呼吸してから、優吾に続いて建物に向かった。

「まあ、なんて立派な大根でしょう。これが1本98円? 信じられません。こちらのにんじんも、こんなに艷やかで美味しそうなのに、なんと3本120円!」

え、テレビのリポーター?と、前にいた人が振り返る。

「大きなナスに、みょうがにオクラ! 今の季節にぴったりの夏野菜。これはもう、買うしかありません」

するとねじり鉢巻を頭に巻いた店員のおじさんが、次々と野菜を袋に入れ始めた。

「おう、姉ちゃん。じゃんじゃん買ってよ。おまけするよー。あとこれ、流しそうめんの参加券。そこの広場でやってるから、彼氏と一緒に寄って行きな」
「流しそうめん!? なんてことでしょう。わたくし、初体験です!」
「おお、良かったな。やって来い、初体験」

優吾は恥ずかしさに居たたまれなくなり、ササッと会計を済ませて袋を受け取ると、美月の手を引いて広場に向かった。

「これはっ、大きい!」

背丈を軽く超える高さに組まれた竹の流し台を、美月は両手を組んで見上げる。

「初めてなのに、こんなにもご立派なものを体験出来るなんて」
「いいから、ほら。受付しよう」

人目を気にして、優吾は美月をそそくさと受付に促した。

「こちらがお椀とお箸です。そうめんをすくう時は、備え付けの菜箸を使って、お好きな場所ですくってくださいね。麺つゆと薬味もおかわり自由です」
「ありがとうございます。いざ、参ります」

美月は右手に菜箸、左手にお椀を持つと、目の高さの位置の竹に近づき、流れ落ちてくるそうめんを待ち受ける。

「来ましたよ、雨宮さん!」
「そうだな」

滑り台を滑るように流れてきたそうめんを、美月は菜箸でサッとすくった。

「わあ、取れました!」
「良かったな」

冷静に答えていた優吾も、いざやってみるとテンションが上がる。

「おお、なかなか楽しい」
「でしょう? あ、雨宮さんずるい! 背が高いから、全部取られちゃう」

本気で頬をふくらませる美月に苦笑いして、優吾は立ち位置を変えた。

「これでよろしいですか?」
「結構ですわ。全部私が堰き止めてみせますからね。いざ、勝負!」
「はいはい」

そうめんを狙う真剣な眼差しの美月に、優吾は思わず頬を緩めた。
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