優しい雨が降る夜は
楽しい時間
「おはようございます、雨宮さん」

翌朝。
スンとした表情で挨拶する美月に、優吾はしばし無言になる。

「どうかしましたか?」
「いや、なにも」

しばらくすると、朝食が運ばれて来た。

「朝からなんて豪華なの」

焼き魚やだし巻き卵、新鮮なしらすに佃煮や煮物、赤出汁や漬物……

時間を気にせず部屋でのんびりと味わう朝食に、二人で贅沢な気分を満喫した。

「お嬢様、よろしければ大浴場もご利用くださいませ。ただ今のお時間は空いております。お着替えに華やかな柄の浴衣もご用意しておりますよ」
「そうなのですね! 行ってみようかしら」

うかがうようにそっと美月に視線を向けられ、優吾は頷く。

「もちろん、行っておいで」
「はい、では行ってまいります」

その間、優吾はパソコンで仕事をすることにした。

外はしとしとと静かな雨が降り、喧騒を忘れさせてくれる。

しばらくしてコーヒーを淹れようと立ち上がり、ふと思い出してテレビをつける。

ちょうど朝の情報番組が始まったところで、案の定芸能ニュースで友利 健二の話題になった。

コンサートを終えてホールを出て来た友利に、芸能レポーターがマイクを向ける。

スタッフにかばわれて、無言のまま通り過ぎようとした友利だったが「否定しないということは、あの女性は恋人だと認めるのですか?」と問われて立ち止まった。

レポーター達をぐるりと見回す友利に、その場が一気に静まり返る。

「私はなにを言われても構いませんが、あちらは一般の方です。ご迷惑となりますので、どうかそっとしておいていただきますよう、心よりお願い申し上げます」

そう言って深々と頭を下げると、スタッフに促されて再び歩き始めた。

スタジオに映像が切り替わり、コメンテーターが意見を求められて口を開く。

「誠実そうな人だから、つき合っていないというのは本当なんでしょうね。でも友利さんはお相手の方を、とても大切にしているのが分かる。彼女のことが好きなんじゃないでしょうかねえ」

それを聞いて、優吾の胸中は複雑だった。
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