優しい雨が降る夜は
(んー、気持ちいい)

少しずつ浮上する意識の中、優吾は両腕で掛け布団を手繰り寄せた。

ギュッと胸に抱えると、なぜだが温かくて抱き心地がいい。

思わず頬ずりしてから、え……?と固まった。

(なんだこれ。布団と一緒に、なにかを抱えている?)

恐る恐る目を開けると、すぐ目の前に美月の顔があって、慌てて身体を離した。

状況を確かめるように辺りを見回す。

布団の上に、二人並んで横たわっていた。

(待て、これは一体? もしや、一夜の過ちを?)

心臓をバクバクさせながら、必死で頭を働かせる。

気持ち良さそうに眠っている美月の寝顔はあどけなく、わずかに開いた唇はふっくらと色っぽい。

(落ち着け、己の理性を信じろ。俺はやっていない。その証拠に、ほら、ちゃんと浴衣を着ている。彼女だって……)

美月に目を向けると、少しはだけた胸元から真っ白な素肌が目に飛び込んできて、優吾は真っ赤になった。

目をそらし、口元を手で覆って気持ちを落ち着かせる。

(このままではいかん)

優吾はわざと顔をそむけながら、掛け布団に手を伸ばし、美月の身体にそっとかけた。

肩までしっかりかぶせて整え、よしと頷いたその時、美月がパチっと目を開く。

「……え」
「あ、いや! これは違うんだ」
「ええ!?」

驚いたように勢い良くガバッと身体を起こした美月の頭が、優吾の額をゴツンと突き上げた。

「イッテ!」
「あ、ごめんなさい!」
「いや、大丈夫。俺こそごめん」
「いえ、あの。すみません、私、ここで眠ってしまったのですね」
「ああ、マッサージ中にね」

落ち着きを取り戻して、美月が頭を下げる。

「失礼しました。マッサージがあまりに気持ち良くて……」
「俺も眠ってしまったんだ。君を隣の部屋に運ぼうと思っていたのに、ごめん」
「いえ、そんな。重いので無理ですよ」
「そんなことはない。それより、朝食の前に露天風呂入って来たら? 10時にはチェックアウトするから」
「そうですね。では最後に満喫させていただきます。雨宮さんも、あとで入ってくださいね」
「ああ。ごゆっくり」

美月がウッドデッキに出ると、優吾はホッとして大きくため息をつく。

(なんか、ちょっと……。今更ながら、軽率だったな)

最近は恋愛からも遠ざかっていたし、美月がお堅い雰囲気だということもあって、まるで意識していなかった。

そうなるような気配もなかったが、よく考えればお互い20代の男女なのだ。

どう考えてもつき合っているカップルにしか見えないだろう。

(浅はかだった。彼女にも悪いことをしたな)

だが、それも今日で終わり。
宿を出れば、車で自宅マンションまで送り届けるだけだ。

(そうだ、それで全て終わり。なにもなかったし、これからもない)

優吾は自分にそう言い聞かせた。
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