優しい雨が降る夜は
翌日。
二人は和室からのんびりと、窓の外に広がる雨模様の景色を眺める。

「なんだか風情があっていいですね」
「そうだな。あとで露天風呂に入ったら?」
「そうですね」
「俺と一緒に」
「はい。って、ええ?」

美月の反応に笑ってから、優吾はポケットに手を入れて、真四角のからくり箱を取り出した。

「美月、見て」
「からくり箱? わあ、ハートが上に載ってて可愛い」
「美月が作った時と同じで、仕掛けは7回。開けられる?」
「もちろん」

受け取った美月は「えっと、確か……」と言いながら、カチカチと板をスライドさせる。

「開いた!」
「じゃあ、中を見てみて」
「はい。……え?」

箱の中を覗き込んだ美月は、驚いて動きを止める。

中にはキラキラとまばゆい輝きを放つ、ダイヤモンドの指輪が入っていた。

「どうした? 美月」
「ゆ、優吾さん。とんでもないものが入ってるの」

優吾は笑いながらからくり箱を受け取り、美月に向き直った。

「美月。美月はこのからくり箱に似てる。奥ゆかしくて凛としていて、気安く触れたり出来なかった。だけどからくり箱のパズルを組み合わせるように、君と少しずつ心を重ねていったら、君の本当の姿を見つけられた。優しくて温かくて、子どもみたいに無邪気で、抱きしめると恥ずかしそうに頬を染めて。 俺のことを大好きだと言って、真っ直ぐに見つめてくれる。万華鏡のように色んな魅力に溢れている。そんな美月が、俺は誰よりも大切で愛おしい」

美月の瞳は、みるみるうちに涙で潤む。

「美月、どうかこれからも俺のそばにいてほしい。結婚しよう」

遂に美月は、ポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。

優吾はそっと手を伸ばして、綺麗な美月の涙を拭う。

「返事を聞かせてくれる?」

すると美月は、優吾を見つめたまま首を振った。

「美月?」
「だって、そんな。私なんかがあなたと結婚なんて……。嬉しいけどだめなの」
「どうしてだめなんだ?」
「あなたはかっこいいし、背が高いイケメンだし、おまけにかっこいいし」
「……美月、同じこと言ってる」
「だって大事なことだから。かっこよくて、優しくて、仕事も出来るし英語も出来る。スマートなエリートのあなたと、地味子で浮世離れした平安と令和を間違えて生まれてきた私が、釣り合う訳ないでしょう?」
「美月、面白すぎて内容が頭に入って来ない」

そう言うと優吾は両手で美月を抱きしめた。

「俺は美月がいいんだけどなあ」
「私もあなたがいいの」
「じゃあ、なにも問題ないだろ?」
「それが大いにあるの」
「まったく……頑固だな。それならこうしよう」

手を解いた優吾を、え?と美月は見上げる。

優吾はポケットからもう1つ、ハートの形のからくり箱を取り出した。
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