年下彼氏はスーパーツンデレ

②

 ――公園へやってきたのは、今日ここでB級グルメのフードフェスタが開かれているからだった。
 広島お好み焼きに富士宮やきそば、佐世保バーガーや金沢カレーなど、ご当地の魅力満載の屋台がずらりと勢ぞろいしている。

「どれも美味しそう……!」
「どこの屋台も結構列ができてるみたいだ。若葉、手分けして食べたいものを買ってくる?」
「いい案だね、ふたりで半分こしよっか」
「決まりだ。じゃあ、この辺りで集合しよう」

 玲央くんが、広い芝生の上に臨時でずらりと並べられたベンチを指さす。
 お昼には少し早めの時間だからか、まだわずかに空席があり、ふたり同時に動いても大丈夫そうだ。

「うん、わかった! 玲央くん、後でね」

 彼と別れた私はすぐに、食欲をそそる濃厚で強烈な香りを放つ屋台に吸い寄せられた。
 甘辛の黒いルーがたっぷりかかったカレーを片手にベンチへ戻ってくると、彼の姿はまだない。

(よかった……集合した時みたいに、また待たせちゃったら悪いもんね。危うく『僕よりカレーが大事なの!?』なんて言われるところだったかも)

 そんな姿を想像すると、自然と頬が緩む。ベンチに座り、膝の上に置いたカレーを見つめていると、そこに人影が落ちた。

「あ、おかえり――」

(えっ)

 顔を上げると、そこに立っていたのは彼ではなく、にこやかな笑みを浮かべた見知らぬお兄さんだった。
 スポーティーなパーカーにスキニーパンツ姿で、私の顔を覗き込むように彼が身を乗り出すと、派手めのネックレスがじゃらりと鳴った。

「ねー、ひとり? 俺もひとり」

(うわ……もしかしてだけどナンパだ)

 思わず身構えてしまいながら、その人から目を逸らす。

「……い、今はひとりですけど、彼氏を待っています」
「じゃ、その彼氏が帰ってくるまで一緒にいていい?」

 私の返事を待たず、ナンパ男さんは勝手に隣に座ってきた。

(……これは、彼氏がいるの嘘だと思われてるな)

 周囲に目を向けると、私と同じようにひとりでいる女性や、キラキラした女の子グループもいる。

(わざわざ私に声をかけるなんて……たぶん〝ちょうどいい〟感じだと思われたんだろうな)

 玲央くんと付き合うようになる、ずっと前――高校1年生の冬、初めて出来た彼氏もそうだった。

 スクールカースト上位の子には手が届かないから〝ちょうどいい〟私で手を打ったのだと、彼氏が友人に話すのを放課後の廊下で偶然聞いてしまった時は、しばらくうまく笑えなかった。

(……嫌なこと思い出しちゃった)

 可もなく、不可もなく。どこにでもいて、たぶんモブの中でも2番手くらいの〝女性B〟。それが私だ。

(玲央くんは、そんな風に私を選んだわけじゃない。……頭では、ちゃんとわかってるはずなのに)

 心がざわつくと勝手に俯いてしまう。膝の上に置いていたカレーのお皿を持つ手に力が入った時――

「……誰?」

 聞き慣れたツンとした声が聞こえて顔を上げると、紙皿にのったお好み焼きを片手に眉をひそめる彼がいた。

「玲央くん……!」
「うわ、ガチで彼氏登場」
「……そこどいて。早くその子から離れて」

 玲央くんが冷えきった声で言うと、ナンパ男さんは何がおかしいのか、ぷっと吹き出しながら立ち上がった。

「いーよ、別に。この子くらいなのは他にゴロゴロいるし」
「……は?」

 玲央くんの声のトーンが一段下がる。

「てか余計なお世話だけどさ、あんたくらいのスペックなら他にもっといい彼女作れんじゃね?」

(っ……)

 ざわついていた胸をさらにえぐられた気がして、心に暗い影が差したその時――

 玲央くんが、手に持っていたお好み焼きをパイ投げのごとくお兄さんの顔面に押しつけた。

(えっ!?)

「……これ、彼女の地元のB級グルメ。美味しいでしょ」
「熱っ、熱いって!」
「ああ、でも〝その辺にゴロゴロいる〟ようなナンパ男には味なんてわからないか。彼女の良さもわからないんだから」

 ナンパ男さんがお好み焼きを顔からはがして地面に叩きつけると、ソースで顔が真っ茶色だ。
 玲央くんは私の膝の上のカレーを手に取り、再び彼に向き直る。

「お好み焼きだけで足りないなら、このカレーもご馳走してあげる。遠慮しないで、こっちは彼女からのおごりだ。ね、若葉?」
「えっ? あっ、うん……」
「わ、悪かったって」

 慌てて立ち去ろうとするナンパ男さんを「ちょっと待ちなよ」と引き留めた玲央くんが、ぴしゃりと言う。

「それ拾って。ちゃんと食べてよね」
「っ……!」

 ぼろぼろに崩れたお好み焼きを紙皿にかき集めて、お兄さんは去っていった。
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