ヤノダンゴ探偵のダイレクトプレー集

【10 団子十本目:夏休み(4)、銅像削られ事件】


・【10 団子十本目:夏休み(4)、銅像削られ事件】


 朝の準備を終えて、一階に降りていくと下からもう征喜の声が聞こえてきた。
「キムチママ、ここで一句」
 変な無茶振りするなよ、と思いながら、居間に入って行くと、ちょうど母さんが、
「ナッツ類 好きな人には たまらない」
 というクソみたいな川柳を詠んでいた。
 いや俺ナッツ好きだからさ、ナッツを穢さないでほしいな。
 俺は征喜へ、
「今日も来たか。また商店街の周りを歩くのか? 事件の種でもそうやって探すのか?」
「違うぞ! 今日は手紙があったぞ! この差出人不明の手紙が!」
 キムチくんへ、と書かれたその手紙の字体は相変わらず全部違っていて。
 なのに差出人不明なことは共通している。一体何なんだろうか。
 俺は征喜から手紙を受け取り、読むことにした。
 なるほど、これはまあ器物損壊というヤツかな。
 征喜に手紙を渡しながら、説明することにした。
「今回は銅像の一部が削られてしまっているらしい。これも電車旅だな。クオカードは入っていた」
「また旅か! 楽しみだなぁ!」
 そう言って立ち上がった征喜。
 いや楽しみにすることじゃないんだけどな。
 征喜は小躍りをしながら、
「アウェイ連戦だぁ!」
 と叫んだ。
 俺は即座に、
「サッカーで言うなよ、そして俺らにとってホームってどこなんだよ」
 すると征喜はすぐに、
「そりゃ勿論、キムチの家だよ」
「ここはオマエのホームじゃなくて俺のホームなんだよな、あとホームで絶対事件起こさせないから。アウェイ連戦上等過ぎる」
 俺と征喜は家から出て、駅に行き、目的地である場所に着いた。
 ちょっと歩くと、その器物損壊されている銅像があった。
 俺も征喜も穴が開くくらい見たんだけども、
「……分かんないなぁ……」
 削られているという話だったが、どこにも違和感を抱かない銅像だった。
 子供が紙飛行機を投げる寸前のような銅像。
 こういう銅像って各所にいろいろあるけど、全部意味分かんないから、本当にどこがどう削られているのか分かんないな。
 俺は周りを見渡すと、他にも似たような銅像がいっぱいあって、いわゆる美術で町おこししている町らしい。
 でもこういう銅像があるからって何なんだよ、とは思っている。
 征喜は銅像を見て、
「競り合うなら空中戦だなぁ……」
 と感慨深そうに頷いた。
 いや、
「銅像と競り合うってなんだよ、ジャンプしないから空中戦は楽勝だろう」
 征喜は首を横に振るって、
「でも地上戦は結構厳しいかもしれない」
「銅像だからな、硬いからな」
 いやそんなことより、まず、よく観察しなければ。
 まずこの銅像、どこが削られているのか?
 もしかすると、ここか? 紙飛行機の先端か?
 ここがもっと尖っていたのかもしれない。そう考えるとやたらと丸くなっているような気がする。
 ちょっと周りの人に聞かないとダメだな。
 改めて今度は銅像ではなくて人を中心に見渡すと、近くのベンチに座っている同じくらいの年齢の女子がいたので、話し掛けることにした。
「すみません、この銅像についてお話したいことがあるのですが」
「えっ、いや私はこの辺の人間じゃないので」
「すみませんでした」
 そう頭をさげて、じゃあ次だ。
 今度は身長が高くて、上のほうにある看板に頭が当たりそうになっているので、必要以上に大きく屈みながら歩いている男性に話し掛けた。
「すみません、この銅像についてお話したいことがあるのですが」
 と言った瞬間だった。
 その人は、
「ひゃん!」
 と言って、一気に額から汗を垂れ流し始めた。
 どう見てもリアクションがおかしい。
 もしかすると二発目でもう当たりか、と思いながら、その人のことをよく観察しながら喋ることにした。
「この銅像って、どこか削れたりしていますか?」
「し! 知りません!」
 そう首をブンブン横に振って、すぐさまどこかへ行こうとした身長の高い男性。
 俺は同じ男性同士だし、と思って、
「ちょっと待ってください!」
 と腕を掴むと、その男性は力強く払ってきて、俺は吹き飛ばされそうになってしまった。
 でも征喜が倒れそうな俺を支えてくれたおかげで、なんとか転ばずに済んだ。
 今度は征喜が声を掛けた。
「すみません! ボクたちはこの削れている銅像の謎を解きに来たヤノダンゴ探偵なんだ!」
 俺はツッコむように、
「いや急にヤノダンゴと言っても分からないだろ。普通に依頼を受けてやってきた探偵の真似事みたいなモンです」
 その男性はやけに慌てながら、
「探偵ってどういうことですか! 誰も気付いていなかったじゃないですか!」
 俺は語気を強めて、
「気付いていないって、やっぱり何か変わっているんですね。しかも貴方は変わっていることに気付いている、と。誰も気付いていないのに」
「そんなぁ!」
 そう言ってその場にしゃがみ込んでしまったその背の高い男性。
 この人が関わっていることは確定だが、一体どうして削ってしまったのだろうか。
 俺はさらに強い口調で、
「貴方がこの紙飛行機の先端を削ったんですね?」
 と言うと、その男性はしゃがみながら頷いた。
 すると征喜が、
「犯人確保!」
 と言ったんだけども、俺は征喜へシッと人差し指を唇に当てた。
 征喜が静かになったところで、俺も抑えた声でこう言った。
「もしかすると貴方はこの尖っていた先端が怖かったんじゃないんですか?」
 それに目を丸くしながら顔を上げたその男性。
 俺は続ける。
「ということは削ったのは貴方じゃなくて知り合いですね。貴方が歩くところ見ていましたが、看板などを過剰に避けているように感じました。つまりそういったモノが怖いんですね」
「はい、そうです……」
 と頷いたその男性へ俺はこう言うことにした。
「これはそういうことを考慮しなかった銅像を建てた側が悪いと思います。だから俺はこのことを誰かに言うつもりはありません。この銅像への依頼も実は差出人不明で解決した場合どう説明すればいいか分からないことなので、本当に誰にも言わないことにしますよ」
 するとその男性は立ち上がって、
「良かった……有難うございます……」
 と言って手を差し出してきたので、俺は固く握手をした。
 その男性と別れたところで、征喜が、
「そっかぁ、そういうこともあるかぁ」
 と感心していた。
 俺は征喜へ、
「まあ別に行政から言われてやっているわけじゃないから、こういう解決でいいんだよ。現に誰も気付いていないって言ってるしな」
「それなら安心だな!」
 俺と征喜は帰路に着いた、が、事件の解決も早く終わり、最寄りの駅に着いてから、俺と征喜はまた商店街の見回りをした。最近よくやっていることだ。
 でもこの時間何なんだろう、と思いつつも、俺は決して征喜のことが嫌ではないし、まあいいかと思った。
 せっかく夏休みなんだし、こういう友達と遊ぶ時間を大切にしよう。
 このヤノダンゴ探偵という行動も、悪くはないと思っているから。
 ただヤノダンゴという名前はどうにかしてほしいけども。
 何でサッカー選手の矢野貴重選手のヤノを拝借しているんだ。
 本人のファンに会ったら、どうすればいいんだ。
 そんなことを少し考えていた。
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