ヤノダンゴ探偵のダイレクトプレー集
【12 最後の団子:九月上旬、体操袋事件】
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・【12 最後の団子:九月上旬、体操袋事件】
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夏休みも終わり、授業も通常に戻った日の放課後、エリーちゃんが泣きそうな顔をしながら、こっちへ近付いてきて、何だろうと思っていると、なんとエリーちゃんの体操袋が無くなったという話だった。
俺はできるだけ優しい声で、
「エリーちゃん、いつ無くなったか覚えている?」
「え……分からない……」
そう俯いてしまったエリーちゃん。
征喜もやってきて、エリーちゃんの机の周りを見ていると、何だか泥がついていることが分かった。
机の引き出し部分の裏に泥の膜というか、そんな感じのモノが平たくペッタリついていたのだ。
「じゃあ泥の近くにある!」
そう叫んだ征喜。
いやでも、
「そんなことある? 机に泥がついていたからって泥の近くに体操袋があるって」
するとエリーちゃんが、
「えっと、でも手掛かりはこれだけなんですよね、じゃあ学校内で泥のあるところに行ったほうがいいんじゃないんですか?」
俺は何か引っ掛かることがずっとあった。
でも今、口に出すことではない。
俺はそのことを胸に秘めて、征喜とエリーちゃんと共に校舎裏の畑に向かって歩き出すことにした。学校内で泥と言えばそこだよね、と三人で答えを出して。
あそこは菜園用の泥とか置いてあるし、スコップで掘った泥とかも溜めているスペースもあるし、と思いながら行くと、なんとそこにエリーちゃんの体操袋が本当に置いてあった。
こんなことあるのか、と思いつつ、俺はエリーちゃんの体操袋を持とうと、一歩前に足を出したところで、
「えっとぉ、キムチくん、それ私の体操袋だから自分で掴むねっ」
と言ったので、いっけね、キモイと思われたかもと思って足を引いた。
エリーちゃんは何だかちょっと言いづらそうに、
「えっっとー、もう見つかったし、キムチくんは先に帰っていいよ。でも征喜くん、ちょっとだけ話があるから残ってもらっていい?」
すると征喜はサムアップしながら、
「おういいぞ! ヤノダンゴ探偵本体にしか頼れないこと! これこそヤノダンゴ探偵のダイレクトプレーだぁ!」
正直征喜は何を言っているか分からないけども、俺はその場をあとにした。
でも何であんなところに体操袋が。いやいやエリーちゃんの体操袋だったら隠さず、そのまま持ち帰らないか? 持ち帰るは変態の発想か……でも何かエリーちゃんの行動って時折違和感があるんだよなぁ。
差出人不明の手紙、何かエリーちゃんかもって思っちゃったんだよなぁ。
だってエリーちゃんならいろんなところに行くし、なんといっても行ける財力があるから、謎を収集することができるし。
征喜じゃなくて俺に手紙を出すところがまさしくそんな感じがする……エリーちゃんって征喜よりも俺を頼っているような感じがするから、うぬぼれかもだけど……待てよ、そう言えば、俺と征喜が謎を解きに行った時、必ず若い子が近くにいなかったか?
でも男子高校生みたいな時も女子高校生みたいな時もあったけど、でもそれは身長を高く見せるシークレットブーツがあれば可能?
というか、あの人たちが喋る時、いつも最初に「え」って言ってなかったっけ? あれってエリーちゃんの口癖だよな……あれ? じゃあエリーちゃんか? エリーちゃんが変装していたのか?
俳優だから変装もお手の物ということか? でも何で俺たちにまとわりついていたんだ? もしかしたら、俺たちに何か恨みがあるのか?
いや! 今! 俺と征喜が引き剥がされている! もしあの体操袋にスタンガンのようなモノが入っていたら!
征喜!
俺は走って戻った。
まさか! そんな!
そんなことを思いながらさっきいた場所に戻ったその時だった!
「えぇぇえええ! ギブギブギブー!」
エリーちゃんのことを地面に押さえつけている征喜がそこにいた。
征喜は声を荒らげている。
「スタンガンとか! そういうのは危ない! 危険! 女子だからって手加減はしない!」
「どうしたんだ征喜!」
と俺が声をあげると、征喜は焦りながら、
「真犯人だ! 真犯人なんだぁぁああ! わぁぁああああああああああああああ!」
俺は目を丸くしながら、
「気が動転し過ぎている! 落ち着け! 征喜! こっちはもう二人だ! 大丈夫だ!」
征喜はエリーちゃんから離れると、エリーちゃんは土を払いながら立ち上がって、こう言った。
「え……強すぎる……」
征喜はサムズアップしながら、
「勿論! ヤノダンゴ探偵は矢野貴重選手のように強いんだ! 当たり負けないゴリゴリの選手!」
俺は深呼吸をしてから、
「差出人不明の手紙はエリーちゃんだね、そして変装してずっと近くにいたよね、どういうことなんだ。俺と征喜に何の恨みがあるんだ」
「え……恨みなんてないよぉぉおおおおおおお! いや征喜くんにはあるけどぉぉおおおおおおおおおおおお!」
そう言ってボロボロ涙を流し始めたエリーちゃん。
いやいや、俳優の涙には騙されてはいけないって、サッカー好き芸人の明石家サマンサさんが言っていた。
俺はなおも厳しい口調でこう言った。
「いいや、恨みが無きゃこんなことしないはずだ」
するとエリーちゃんが涙をハンカチで拭ってからこう言った。
「えっ! もう言う! 言うよ! 私はキムチくんのことが大好きなんです!」
「……えっ?」
エリーちゃんは顔を真っ赤にしながら声を荒らげる。
「征喜くんに振り回されつつも本当に解決しているのはキムチくんで! だからキムチくんだけに謎を解いてほしくてキムチくんの家に手紙を出しているのにいつも征喜くんがいて! 酷い! 酷いです! 幼馴染ってだけでいつも一緒に居て! 私だってキムチくんと一緒に居たいんですよぉぉおおおおおおお!」
……どゆこと?
エリーちゃんは続ける。
「えー! もう! キムチくんが謎を解決する姿が大好きで! こんな聡明な人、芸能界にだっていないです! 大好きです! 私の癒しです! キムチくんと付き合いたいです!」
俺は小首を傾げながら、
「それって、つまり、俺のことが、好き、ということ?」
エリーちゃんはなおも大きな声で、
「えぇぇえ! もうそう言ってるじゃないですかぁぁああああ!」
と言ったところで、征喜が挙手しながら叫んだ。
「ちょっと待ったぁ!」
何か、何かまさか、と思っていると、征喜が俺に手を差し出しながら、こう言った。
「ボクもキムチのこと好きだ! これからもずっとヤノダンゴ探偵をやってほしい!」
俺は即座に、
「今! 恋愛の場面だから! 征喜! ちょっと邪魔すんなよ!」
征喜は首をブンブン横に振るって、
「分かってるよ! でもキムチが恋愛にうつつ抜かしたら! ヤノダンゴ探偵が弱くなるじゃん! 降格するじゃん! これからもヤノダンゴ探偵のことを一番に想ってほしいんだよ!」
俺は慌てながら、
「何でちゃんと強火なんだ! 征喜のほうも!」
するとエリーちゃんも俺に手を差し出してきて、
「え! ダメ! 私と付き合ってほしいです! 恋愛にうつつを抜かしてほしいです!」
と言ってきて、もう俺は訳が分からなくなってしまい、俯いてしまった。
でもここは俺が何か言うターンだと思って、
「まだ俺は、征喜とバカやっていたいし……」
とつい本音を言ってしまうと、エリーちゃんが俺の顔をガッと掴んで、無理やり顔をあげさせて、
「えー! じゃあキープ! 私がキムチくんをキープします! 今はまだ好きに征喜くんと一緒に探偵していてもいいですが! 高校生になったら私と恋愛してくださいね!」
すると征喜がムッとしながら、
「高校生になってもヤノダンゴ探偵だい!」
と言うと、間髪入れずにエリーちゃんが、
「えっ、いいえ! 征喜くんの家はそこまで裕福じゃないので、バイトしないといけないでしょう? だから高校生になったら別々になるのです! そもそもキムチくんとは学力の差もありますからね! その点、私はキムチくんと同じ成績帯なので一緒にいれます!」
すごい、すごく調べあげている、あの謎収集力から考えればそれくらい余裕というわけか。
征喜は溜息交じりに、
「そりゃそうかぁ……」
と納得しているようだった。
でも俺は、今何よりも気になっていることがあり、それをエリーちゃんにぶつけることにした。
「エリーちゃん、ヤノダンゴ探偵本体である征喜をスタンガンで気絶させたとして、どうする気だったんだい?」
エリーちゃんは少し恥ずかしそうに、
「えー、そりゃ勿論征喜くんを縛りあげて、そこに『ヤノダンゴ探偵完全敗北』と書かれた布を巻きつけて、ヤノダンゴ探偵の株をさげて、今度はキムチくんと私のエリケーキ探偵を始めようと思っていたんですぅ」
俺は生唾を飲み込んだ。
こんなことを計画するような子と高校生になった時に付き合っていいものなんだろうか。
征喜は相変わらずアホみたいに、
「ヤノダンゴ探偵はACLを狙うんだ!」
とか言っているし、何かもう、未来は不安でいっぱいだ。
(了)
・【12 最後の団子:九月上旬、体操袋事件】
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夏休みも終わり、授業も通常に戻った日の放課後、エリーちゃんが泣きそうな顔をしながら、こっちへ近付いてきて、何だろうと思っていると、なんとエリーちゃんの体操袋が無くなったという話だった。
俺はできるだけ優しい声で、
「エリーちゃん、いつ無くなったか覚えている?」
「え……分からない……」
そう俯いてしまったエリーちゃん。
征喜もやってきて、エリーちゃんの机の周りを見ていると、何だか泥がついていることが分かった。
机の引き出し部分の裏に泥の膜というか、そんな感じのモノが平たくペッタリついていたのだ。
「じゃあ泥の近くにある!」
そう叫んだ征喜。
いやでも、
「そんなことある? 机に泥がついていたからって泥の近くに体操袋があるって」
するとエリーちゃんが、
「えっと、でも手掛かりはこれだけなんですよね、じゃあ学校内で泥のあるところに行ったほうがいいんじゃないんですか?」
俺は何か引っ掛かることがずっとあった。
でも今、口に出すことではない。
俺はそのことを胸に秘めて、征喜とエリーちゃんと共に校舎裏の畑に向かって歩き出すことにした。学校内で泥と言えばそこだよね、と三人で答えを出して。
あそこは菜園用の泥とか置いてあるし、スコップで掘った泥とかも溜めているスペースもあるし、と思いながら行くと、なんとそこにエリーちゃんの体操袋が本当に置いてあった。
こんなことあるのか、と思いつつ、俺はエリーちゃんの体操袋を持とうと、一歩前に足を出したところで、
「えっとぉ、キムチくん、それ私の体操袋だから自分で掴むねっ」
と言ったので、いっけね、キモイと思われたかもと思って足を引いた。
エリーちゃんは何だかちょっと言いづらそうに、
「えっっとー、もう見つかったし、キムチくんは先に帰っていいよ。でも征喜くん、ちょっとだけ話があるから残ってもらっていい?」
すると征喜はサムアップしながら、
「おういいぞ! ヤノダンゴ探偵本体にしか頼れないこと! これこそヤノダンゴ探偵のダイレクトプレーだぁ!」
正直征喜は何を言っているか分からないけども、俺はその場をあとにした。
でも何であんなところに体操袋が。いやいやエリーちゃんの体操袋だったら隠さず、そのまま持ち帰らないか? 持ち帰るは変態の発想か……でも何かエリーちゃんの行動って時折違和感があるんだよなぁ。
差出人不明の手紙、何かエリーちゃんかもって思っちゃったんだよなぁ。
だってエリーちゃんならいろんなところに行くし、なんといっても行ける財力があるから、謎を収集することができるし。
征喜じゃなくて俺に手紙を出すところがまさしくそんな感じがする……エリーちゃんって征喜よりも俺を頼っているような感じがするから、うぬぼれかもだけど……待てよ、そう言えば、俺と征喜が謎を解きに行った時、必ず若い子が近くにいなかったか?
でも男子高校生みたいな時も女子高校生みたいな時もあったけど、でもそれは身長を高く見せるシークレットブーツがあれば可能?
というか、あの人たちが喋る時、いつも最初に「え」って言ってなかったっけ? あれってエリーちゃんの口癖だよな……あれ? じゃあエリーちゃんか? エリーちゃんが変装していたのか?
俳優だから変装もお手の物ということか? でも何で俺たちにまとわりついていたんだ? もしかしたら、俺たちに何か恨みがあるのか?
いや! 今! 俺と征喜が引き剥がされている! もしあの体操袋にスタンガンのようなモノが入っていたら!
征喜!
俺は走って戻った。
まさか! そんな!
そんなことを思いながらさっきいた場所に戻ったその時だった!
「えぇぇえええ! ギブギブギブー!」
エリーちゃんのことを地面に押さえつけている征喜がそこにいた。
征喜は声を荒らげている。
「スタンガンとか! そういうのは危ない! 危険! 女子だからって手加減はしない!」
「どうしたんだ征喜!」
と俺が声をあげると、征喜は焦りながら、
「真犯人だ! 真犯人なんだぁぁああ! わぁぁああああああああああああああ!」
俺は目を丸くしながら、
「気が動転し過ぎている! 落ち着け! 征喜! こっちはもう二人だ! 大丈夫だ!」
征喜はエリーちゃんから離れると、エリーちゃんは土を払いながら立ち上がって、こう言った。
「え……強すぎる……」
征喜はサムズアップしながら、
「勿論! ヤノダンゴ探偵は矢野貴重選手のように強いんだ! 当たり負けないゴリゴリの選手!」
俺は深呼吸をしてから、
「差出人不明の手紙はエリーちゃんだね、そして変装してずっと近くにいたよね、どういうことなんだ。俺と征喜に何の恨みがあるんだ」
「え……恨みなんてないよぉぉおおおおおおお! いや征喜くんにはあるけどぉぉおおおおおおおおおおおお!」
そう言ってボロボロ涙を流し始めたエリーちゃん。
いやいや、俳優の涙には騙されてはいけないって、サッカー好き芸人の明石家サマンサさんが言っていた。
俺はなおも厳しい口調でこう言った。
「いいや、恨みが無きゃこんなことしないはずだ」
するとエリーちゃんが涙をハンカチで拭ってからこう言った。
「えっ! もう言う! 言うよ! 私はキムチくんのことが大好きなんです!」
「……えっ?」
エリーちゃんは顔を真っ赤にしながら声を荒らげる。
「征喜くんに振り回されつつも本当に解決しているのはキムチくんで! だからキムチくんだけに謎を解いてほしくてキムチくんの家に手紙を出しているのにいつも征喜くんがいて! 酷い! 酷いです! 幼馴染ってだけでいつも一緒に居て! 私だってキムチくんと一緒に居たいんですよぉぉおおおおおおお!」
……どゆこと?
エリーちゃんは続ける。
「えー! もう! キムチくんが謎を解決する姿が大好きで! こんな聡明な人、芸能界にだっていないです! 大好きです! 私の癒しです! キムチくんと付き合いたいです!」
俺は小首を傾げながら、
「それって、つまり、俺のことが、好き、ということ?」
エリーちゃんはなおも大きな声で、
「えぇぇえ! もうそう言ってるじゃないですかぁぁああああ!」
と言ったところで、征喜が挙手しながら叫んだ。
「ちょっと待ったぁ!」
何か、何かまさか、と思っていると、征喜が俺に手を差し出しながら、こう言った。
「ボクもキムチのこと好きだ! これからもずっとヤノダンゴ探偵をやってほしい!」
俺は即座に、
「今! 恋愛の場面だから! 征喜! ちょっと邪魔すんなよ!」
征喜は首をブンブン横に振るって、
「分かってるよ! でもキムチが恋愛にうつつ抜かしたら! ヤノダンゴ探偵が弱くなるじゃん! 降格するじゃん! これからもヤノダンゴ探偵のことを一番に想ってほしいんだよ!」
俺は慌てながら、
「何でちゃんと強火なんだ! 征喜のほうも!」
するとエリーちゃんも俺に手を差し出してきて、
「え! ダメ! 私と付き合ってほしいです! 恋愛にうつつを抜かしてほしいです!」
と言ってきて、もう俺は訳が分からなくなってしまい、俯いてしまった。
でもここは俺が何か言うターンだと思って、
「まだ俺は、征喜とバカやっていたいし……」
とつい本音を言ってしまうと、エリーちゃんが俺の顔をガッと掴んで、無理やり顔をあげさせて、
「えー! じゃあキープ! 私がキムチくんをキープします! 今はまだ好きに征喜くんと一緒に探偵していてもいいですが! 高校生になったら私と恋愛してくださいね!」
すると征喜がムッとしながら、
「高校生になってもヤノダンゴ探偵だい!」
と言うと、間髪入れずにエリーちゃんが、
「えっ、いいえ! 征喜くんの家はそこまで裕福じゃないので、バイトしないといけないでしょう? だから高校生になったら別々になるのです! そもそもキムチくんとは学力の差もありますからね! その点、私はキムチくんと同じ成績帯なので一緒にいれます!」
すごい、すごく調べあげている、あの謎収集力から考えればそれくらい余裕というわけか。
征喜は溜息交じりに、
「そりゃそうかぁ……」
と納得しているようだった。
でも俺は、今何よりも気になっていることがあり、それをエリーちゃんにぶつけることにした。
「エリーちゃん、ヤノダンゴ探偵本体である征喜をスタンガンで気絶させたとして、どうする気だったんだい?」
エリーちゃんは少し恥ずかしそうに、
「えー、そりゃ勿論征喜くんを縛りあげて、そこに『ヤノダンゴ探偵完全敗北』と書かれた布を巻きつけて、ヤノダンゴ探偵の株をさげて、今度はキムチくんと私のエリケーキ探偵を始めようと思っていたんですぅ」
俺は生唾を飲み込んだ。
こんなことを計画するような子と高校生になった時に付き合っていいものなんだろうか。
征喜は相変わらずアホみたいに、
「ヤノダンゴ探偵はACLを狙うんだ!」
とか言っているし、何かもう、未来は不安でいっぱいだ。
(了)


