記憶の欠片
 ふと、境内を見回すと、見慣れた顔が目に入った。


「献くん…?」


 偶然、献くんに出会ったのだ。

 驚いた気持ちを押さえつつ、少し距離を保って近づく。

 献くんの後ろには、着物姿の女の子がいた。

 日菜咲さん――彼の幼なじみらしい。

 二人は楽しそうに会話していて、息がぴったり合っているように見える。

 献くんの少し照れた表情と、日菜咲さんの笑顔が、とてもお似合いで、自然と微笑みがこぼれた。


「…あれ、日菜咲さん、積極的だな」


 献くんは、普段のちょっとおどけた印象とは違い、今日は少し落ち着いた表情をしていた。

 凛とした目つきで、でもどこか柔らかさも残る顔。

 着物姿の自分と日菜咲さんの間にいると、少し照れくさそうに笑みを浮かべる。

 その笑顔には、いつも通りの明るさと、ほんの少しの不器用さが混ざっている。

 日菜咲さんは、鮮やかな色の着物を纏い、髪をきちんと結い上げている。

 表情は朗らかで、目がくるくると輝き、まるで花が咲いたような笑顔だ。

 献くんに話しかける時は、自然と体を少し前に傾けて、距離を縮める。

 言葉の端々に好意が滲んでいて、まっすぐ献くんを見つめる瞳には、遠慮のかけらもない。

 献くんはその熱意に少し押されている様子だ。

 頬がほんのり赤く染まり、言葉に詰まりながらも、笑顔で応じる。

 日菜咲さんの存在感は大きく、周囲の景色や人々の声が二人の間ではまるでフェードアウトしたかのように感じられる。

 その二人のやり取りは自然で、互いをよく知っている幼なじみならではの距離感がある。

 日菜咲さんの笑顔と献くんの微笑みは、見ているだけで温かくなる――そんな空気を放っていた。


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