記憶の欠片
 家に帰ると、やっぱり誰もいなかった。

 静まり返ったリビング。

 時計の秒針の音だけが、規則正しく刻まれている。

 私はスマホと財布だけを掴んで、靴を履いた。

 鍵を閉める音すら、しなかった。

 外に出ると、夕暮れの空が広がっていた。

 行き先なんて、決めていない。

 地図も、目的も、理由もない。

 ただ、遠くへ。

 誰も私を知らない場所へ。

 誰にも「大丈夫?」って聞かれない世界へ。

 名前も、過去も、想いも置いていけるなら——少しは、楽になれる気がした。

 私は歩き出す。

 夕焼けの中に、自分の影だけを連れて。

 その先に何があるのかなんて、分からないまま。

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