記憶の欠片
 中学二年生の秋。

 音楽室で起きたあの事故のあと、俺と明日香は職員室に呼ばれていた。

 いじめの経緯、誰が何をしていたのか、どこまで知っていたのか。

 何人もの先生に囲まれて、同じ質問を何度も繰り返される。

 蛍光灯の白い光がやけに眩しくて、時計の針の音だけが、やけに大きく聞こえていた。

 気づけば、外は真っ暗だった。

 窓を叩く雨音が強くなっている。

 話が終わった頃には、もう夜中と言ってもいい時間帯だった。


「今日はもう帰りなさい」


 先生の声は疲れていた。

 明日香の親は、車で迎えに来ていた。

 事前に連絡が入っていたらしい。

 小さく会釈をして、明日香は車に乗り込んだ。

 窓越しに一瞬目が合う。

 泣き腫らした目だった。

 俺は暗い昇降口に一人で立っていた。

 親は来ていない。

 仕事で忙しい人たちだ。

 いつもそうだった。

 俺よりも、仕事優先。

 寂しいと思わなかったわけじゃない。

 でも、もう慣れていた。

 自由ではあったし、干渉もされない。

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