記憶の欠片
病院に着いてしばらくして、愛梨の家族が駆け込んできた。
お母さんは、顔色を失っていた。
処置が終わり、状況が落ち着いた頃、俺は廊下で深く頭を下げられた。
「……迷惑をかけてしまってごめんなさい。いつも助けてくれて、ありがとう」
違う。
迷惑なんて、思ったことない。
でも、その言葉を飲み込む。
俺は、静かに説明した。
いじめのこと。
最近ひどくなっていたこと。
今日、橋の下で倒れていたこと。
話している間、拳が震えていた。
守れなかった。
もっと早く動けたはずだ。
もっと早く気づけたはずだ。
「……ごめんなさい」
お母さんの声が小さく震える。
謝るのは俺の方だ。
でも、言わない。
俺が「守る」と言ったせいで、愛梨は一人で抱え込んだのかもしれないから。
廊下の窓の外には、まだ雨が降っていた。
ガラスを伝う水滴が、まるで泣いているみたいだった。
病室の扉の向こうで、愛梨は眠っている。
俺はその前に立ちながら、心の中で呟いた。
——もう、迷惑なんて思わせない。
でも。
そのためには、俺は、離れるしかないんだ。
好きだなんて、もう言わない。
守るなんて、言わない。
ただ、遠くから。
愛梨が笑える世界を、願うだけでいい。
そう決めたのに。
胸の奥が、痛くて仕方なかった。
お母さんは、顔色を失っていた。
処置が終わり、状況が落ち着いた頃、俺は廊下で深く頭を下げられた。
「……迷惑をかけてしまってごめんなさい。いつも助けてくれて、ありがとう」
違う。
迷惑なんて、思ったことない。
でも、その言葉を飲み込む。
俺は、静かに説明した。
いじめのこと。
最近ひどくなっていたこと。
今日、橋の下で倒れていたこと。
話している間、拳が震えていた。
守れなかった。
もっと早く動けたはずだ。
もっと早く気づけたはずだ。
「……ごめんなさい」
お母さんの声が小さく震える。
謝るのは俺の方だ。
でも、言わない。
俺が「守る」と言ったせいで、愛梨は一人で抱え込んだのかもしれないから。
廊下の窓の外には、まだ雨が降っていた。
ガラスを伝う水滴が、まるで泣いているみたいだった。
病室の扉の向こうで、愛梨は眠っている。
俺はその前に立ちながら、心の中で呟いた。
——もう、迷惑なんて思わせない。
でも。
そのためには、俺は、離れるしかないんだ。
好きだなんて、もう言わない。
守るなんて、言わない。
ただ、遠くから。
愛梨が笑える世界を、願うだけでいい。
そう決めたのに。
胸の奥が、痛くて仕方なかった。