記憶の欠片
 昼休み、友達と話していると、いつの間にか慧くんが混ざってくる。

 放課後、昇降口で靴を履いていると、「一緒に帰ろ」と当たり前みたいに言う。

 拒めばいいのに、私は曖昧に笑って隣を歩いてしまう。


「愛梨さ、最近ちゃんと笑うようになったよな」


「……そう?」


「うん。俺は嬉しい」


 その言葉に、何も言えなくなる。

 嬉しいなんて言われたら、離れられなくなる。

 慧くんは、決して過去の話をしない。

 でも、まるで何事もなかったみたいに、私との距離を縮めてくる。

 それが余計に、私を混乱させた。

 振ったのは慧くん。

 区切りをつけたいと言ったのも、慧くん。

 なのに今は、まるで以前よりも近い。

 慧くんは、ずるいよ。

 心の中で何度もそう呟いた。

 それでも、気づけば私は慧くんの隣にいて、笑っていて、名前を呼ばれて胸を高鳴らせている。

 諦める準備をしたはずなのに、想いは薄れるどころか、日々積もっていく。

 私はもう、完全に慧くんのペースに乗せられてしまっていた。

 それがどんな結末を迎えるとしても、この気持ちだけは、どうしても抑えられなかった。
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