記憶の欠片 Original
 
横断歩道の先が、騒がしかった。


 人が集まっていて、赤い光が、くるくる回っていて。


 ——救急車。


 ——パトカー。


 「……なに?」


 近づいちゃいけない気がしたのに、足が勝手に前へ進んだ。

 人の隙間から、見えてしまった。


 道路に横たわる、動かない人。


 傘が転がっていて。


 靴が、見覚えのある形で。


 ——お父さん?


 そう思った瞬間、頭が、真っ白になった。


 「……え?」


 声が出ない。


 考えようとすると、世界が、音だけになる。


 サイレン。


 雨音。


 誰かの話し声。


 「……お父さん?」


 「なんで…」


 理解したくなくて、でも目は逸らせなくて。


 胸の奥が、ぎゅっと潰れる。


 息が、できない。


 怖い。


 分からない。


 信じたくない。

< 20 / 150 >

この作品をシェア

pagetop