記憶の欠片
 横断歩道の先が、騒がしかった。

 人が集まっていて、赤い光が、くるくる回っていて。

 ——救急車。

 ——パトカー。


 「……なに?」


 近づいちゃいけない気がしたのに、足が勝手に前へ進んだ。

 人の隙間から、見えてしまった。

 道路に横たわる、動かない人。

 傘が転がっていて。

 靴が、見覚えのある形で。

 ——お父さん?

 そう思った瞬間、頭が、真っ白になった。


 「……え?」


 声が出ない。

 考えようとすると、世界が、音だけになる。

 サイレン。

 雨音。

 誰かの話し声。


 「……お父さん?」


 「なんで…」


 理解したくなくて、でも目は逸らせなくて。

 胸の奥が、ぎゅっと潰れる。

 息が、できない。

 怖い。

 分からない。

 信じたくない。

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